天文との出会い
第13回 「BORG125SD 開発秘話」

Writer:中川 昇

《中川昇プロフィール》

1962年東京生まれ。46才。小学3年生で天文に目覚め、以来天文一筋37年。ビクセン、アトム、トミーと望遠鏡関連の業務に従事。現在、株式会社トミーテックボーグ担当責任者。千葉天体写真協会会長、ちばサイエンスの会会員、鴨川天体観測所メンバー、奈良市観光大使。

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BORG125SD開発の背景

125SD 全体写真

さて、今回は2007年12月発売の新製品「BORG125SD」の話をしてみようと思います。本連載第7回でも触れたように、ボーグの対物レンズの硝材を従来の鉛入りから鉛フリーのエコガラスへと切り替える際に、採算性の問題から、旧125EDや150EDを相次いで生産中止にしてしまったため、最上位機種が101EDになってしまいました。そうすると、お客様からボーグはラインナップを大幅に縮小してしまったと捉えられてしまい、全体的にボーグの売上が伸び悩む時期(2005〜2006年)が続きました。

しかしながら、「アメリカを中心とする海外市場では、高橋製作所の製品を始めとする高級機市場が非常に活性化しており、そのブランド力も相まって、まさに飛ぶように売れている」という情報も、海外の代理店のヒューテックさんから入っておりました。そこで、ヒューテックさんの全面的なバックアップの下、旧125EDのエコガラスバージョンを新発売しようということになり、開発がスタートしました。2006年のことです。

BORG125SDの開発コンセプト

BORG125SD分解写真

旧125EDの後継機種については、やはり対物レンズの出来が売れ行きを大きく左右するということが、当然ながら簡単に予想できました。とはいえ、ライバルである高橋製作所さんの真似をするだけでは、圧倒的なブランド力の差に負けてしまうことはわかっていましたので、まず「他社には真似のできない、ボーグの真の強みとは何か?」ということを、自ら問いかけることから始めました。

ボーグの強みとは何だろうか? それは幸いな事にすぐに思い浮かびました。「軽いこと」「コンパクトなこと」「ばらせること」「どんな使い方にも対応できること」「補正レンズは業界ナンバーワンであること」などなど。それに加えて「当然、良く見えて、良く写る望遠鏡であること」。

そこで、対物レンズの硝材には、オハラ製のS-FPL53という、現状では最高のガラス(一般的にはSDレンズと呼ばれています)を採用することに決めました。ただ、このレンズを採用するには多くの問題がありました。第一はどこに頼むか、第二はコスト、第三は納期です。とくにどこに生産を依頼するかは、大きな問題でした。

ペンタックスオプトテック(株)との出会い

従来からボーグの対物レンズの生産を委託している藤井光学さんには、すでにミニボーグ4種、ボーグ3種、補正レンズ3種、その他レンズ3種、計13種ものレンズの生産を請け負っていただいており、すでにキャパシティーオーバーで、とても依頼できる状態ではありませんでした。そこに登場したのが、ペンタックスオプトテック(株)さん(以下PO社)でした。PO社との出会いは、まったくの偶然です。PO社は栃木の益子に工場と事務所があり、カメラレンズ等の生産を行なっていましたが、デジタル一眼レフカメラのシェア争いでキヤノン、ニコンの後塵を拝し、苦境に立たされていました。そこで、とりあえず栃木県内の企業に営業をかけ、声がかかったのが、栃木のおもちゃの町にTOMIXの工場がある(株)トミーテックだったのです。残念ながらTOMIXでは仕事の縁がありませんでしたが、栃木のスタッフがボーグなら関係があるかもしれないということで、紹介をしてくれたのが取引の始まりでした。つまり、PO社は当初はボーグの存在をまったく知らなかったというわけです。

当初は、弊社もPO社に何をお願いしようかと思案していましたが、ちょうどこの頃、市場の流れが高級化という方向にむき出したのをきっかけに、大ヒットしたEDレデューサー「F4DG【7704】」の生産を依頼、これがご存知のように高性能だったので、今回の125SDもPO社に依頼することになったわけです。予想通り、PO社の仕事は丁寧で、素晴らしい精度でした。期待以上の出来に私も「運命とはこういうものなのだなあ」と神様に思わず感謝した次第です。

125SD 対物セルクローズアップ

今回は、レンズの生産だけでなく、コート、調整、組み立て、セルの生産も委託しましたので、完成度の高い状態で弊社に納品されることになりました。これも旧125EDにはない改善点です。さらには光軸問題も解消しました。また、旧125EDは極限まで軽くするために対物セルを薄くしすぎましたが、今回の125SDは逆に可能な限り厚く頑丈に作りましたので、対物レンズはビクともしません。対物セル以外の部分では肉抜きをして軽量化しましたので、全体としては旧型とほぼ同じ重量のわずか4.5kgに抑える事ができました。

BORG125SDの魅力とは?

M8とM20の写真

さて、このような経緯で生産されたBORG125SDですが、ユーザー側から見るとどのようなメリットがあるのでしょうか? 実際に試作品を約半年間使ってみた個人的な感想は以下の通りです。

  1. とにかく軽くてコンパクトなので、カメラ三脚でも搭載可能。すぐに見られて、すぐにしまえる。他社の同クラスの製品と比べて小回りがききます。
  2. 分解可能なので電車でも運べます。実際125SDを持って、自宅と会社の間を満員電車で何度も往復しましたが苦になりません。何度分解しても光軸の再現性も問題ありません。
  3. 大切なレンズ部分を外して防湿庫に保管すれば、カビや汚れの心配からも開放されました。レンズが汚れても内側から簡単に清掃できるのも大きなメリットです。
  4. 鏡筒を短鏡筒に交換できるので、双眼装置などの光路長の長いアクセサリーもバロー系なしで使えます。PO社生産の対物レンズは眼視でも良く見えます。
  5. レンズ部の外径が140φと小さいので、軽量・高性能な双眼望遠鏡用としても最適です。
  6. 接眼部がヘリコイド以外にも選択できるようになったため、用途によって接眼部を使い分けることも可能になりました。例えばレデューサー使用時はヘリコイド、拡大撮影はフェザータッチフォーカサーに交換、という具合にです。
  7. 豊富なボーグパーツのほとんどが使える高い汎用性・システム性を有しています。手持ちのパーツであらゆる使い方が可能でした。
  8. 皆既日食ツアーなど、海外旅行では、荷物を小さくまとめられ、超過料金も少なく、回数を重ねるごとにメリットを実感するかと思います。

月の写真

月の写真

以上、思いついたことを書き出しましたが、まだまだ、他にも目に見えないメリットがあるものと思います。もちろん純国産品ということも忘れてはなりません。

今後の125SDシステムの展開について

このように現在のBORG125SDだけでも、十分に魅力的な望遠鏡に仕上がったかと自負していますが、システムが売りのボーグがこれだけで終わるはずはありません。今、ヒューテックさんとのコラボレーションで考えている今後の製品計画をそっとお教えしましょう。

  1. 大型レデューサーの開発予定があります。現在のEDレデューサーF4DGやレデューサー0.85×DGLも優秀なレデューサーですが、せっかく125SDが接眼部交換式という他にはない方式を採用していますので、それを生かさない手はありません。大型の接眼部と合わせて、2008年後半の主要アイテムのひとつとして検討中です。これ最強かも!? 相当高価になりそうですが……、ご期待ください。
  2. F2.8レデューサーの開発予定もあります。過去に1度チャレンジして見事にこけてしまったF2.8のレデューサーですが、PO社やさらに強力な助っ人企業の助けも借り、ボーグに吹いている追い風も利用して、こちらも検討中です。やはり相当高価になりそうですが……。発売日も未定ですが、ご期待ください。

125SDの接眼部の写真(フェザータッチフォーカサー)

以上のように、125SDはさらなる可能性を秘めた名機として、末長く販売していく予定です。次回は、2008年第1回ということもあり、今後のボーグのこと、天文業界のこと、趣味と仕事のこと、など思うところを書いてみたいと考えています。

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