天文との出会い
第14回 「仕事を通じて学んだこと・伝えたいこと」

Writer:中川 昇

《中川昇プロフィール》

1962年東京生まれ。46才。小学3年生で天文に目覚め、以来天文一筋37年。ビクセン、アトム、トミーと望遠鏡関連の業務に従事。現在、株式会社トミーテックボーグ担当責任者。千葉天体写真協会会長、ちばサイエンスの会会員、鴨川天体観測所メンバー、奈良市観光大使。

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はじめに

今回は、少し真面目な話をしたいと思います。2006年冬にこの連載エッセイを引き受けたときに、皆さんに一番伝えたかったことが今回の話です。「ボーグが売れる、売れない」「天文業界が発展する、発展しない」という次元を超えた「この世の中に人はなぜ生まれてきたのか?」「働く意味とは?」「生きる意味とは?」という根源的な問いかけです。

今まで45年間生きてきたわけですが、40歳になるまでは、そうしたことをあまり深く考えずに働いてきました。ところが、40歳を過ぎたころから、なぜか急に日本の古い歴史に興味が出てきたのです。そして、日本の歴史や伝統を知れば知るほど「これは何とかしなくてはいけない」と考えるようになりました。さらには「このままでは日本も世界もダメになってしまう」と本気で考えるようになってきたのです。

今回は、その辺を皆さんに少しでも理解していただき、力を合わせてこの危機を乗り越えていきませんか? というメッセージです。このエッセイを読んでいるのも何かの縁だと考えていただき、少しの間お付き合いをいただければ幸いです。

仕事について(1)

中川氏のデスクの写真

現在、私がしている仕事は、なかなか大変です。製品の企画開発、テスト、検査、説明書やカタログ、広告、HPの制作といったクリエイティブな業務のほか、電話やメールの対応、出荷、営業、販売店との対応、輸出業務、外注業者との交渉、製品の修理、アフターサービス、管理業務、市場調査、さらには売上・利益・在庫に対する責任など実に様々です。そのため毎日多忙な日々を送っています。週末もテスト撮影や千葉天体写真協会の会長業務、奈良観光大使としての業務(これは趣味ですが…)、本連載等の執筆活動などがありますので、ほとんどすべてが仕事絡みの人生という感じです(写真にあるデスクで様々な業務をこなしています)。こうした状況ですが、当初は「何でこんな大変な思いをしなくてはいけないんだろう」「もっと楽をしたい」と考えることも多く、「いつこの仕事を辞めようか」「売上のプレッシャーから逃れたい」と、後向きなことばかり考えていました。

それが変わってきたのは、奈良に行くようになってからです。この連載の第12回にも触れましたが、1999年奈良に惹かれるように行ってから、今までの考え方はどこか間違っていたのではないか?と考えるようになりました。そのあたりのことは、社会人である皆さんや、これから社会人になる学生さんにも参考になるかもしれませんので、詳しく書いてみたいと思います。

感謝するこころ

春日大社の「感謝」の石碑

私がこれだけ大変な仕事をしていても、売上や利益の数字がついてこなければ、当然会社は認めてくれません。また評価もしてくれません。どうしても不満はそこにくるわけです。しかし、不満ばかり言っていても、前に進まない現実があり、大きな壁にぶつかっていました。その状況を救ってくれたのが、ボーグユーザーからの感謝と応援の声でした。

「ボーグのおかげで星見を楽しんでいます。」とか、「ボーグで毎週、野鳥撮影を楽しんでいます。ボーグのおかげで週末の大きな楽しみができました」とか、「これからもユニークで使いやすい製品を開発してください。応援しています」というメッセージをいただくと実に嬉しく、「ああ、ボーグをやっていてよかった」としみじみ思うのです。このじんわりとくる何ともいえない幸福感は何にも変えがたいものがあります。こうした言葉を聞けば聞くほど、体の中からエネルギーが湧いてくるのです。これはとても重要なことです。「人が喜ぶことをすれば、自分も幸福になれる」「感謝する心が人の心を変え、世の中をよくする」という実に基本的なことに、40歳を過ぎてからようやく気がつきました。

つまり、私がすべきことは、「お客様に喜んでもらえる製品、サービス、情報をご提供し続けること」に尽きるということです。こう気がついたとき、すべてが少しずつ良い方向に変わっていきました。気がつかせてくれたお客様には感謝しても感謝しきれないほど、ありがたく感じています。

神様のこと

春日大社と灯籠

突然ですが、皆さんは神様の存在を信じますか? 私も奈良に行くようになるまでは、「神様なんているわけはないが、昔の人は信じていたんだなあ」くらいにしか考えていませんでした。ところが、奈良に行くようになってから「もしかすると神様はいるかもしれない」と思うようになり、さらにある本をきっかけに「神様はいると信じた方がよさそうだな」というように変わりました。今では、「神様を喜ばせることが幸福につながる」「神様を喜ばせるにはどうしたらいいのか?」と考えるようになりました。何やら怪しげな宗教の話が出てきて、引いてしまった方も多いかもしれませんが、そういう視点で世の中を見ると、この世の中で起きていることが理解できるようになったのです。これは新鮮な体験でした。昔の人はそのあたりのことが分かっていたのでしょう。科学だけでは割り切れない何かがあることを。

春日大社のこと

春日大社

中川氏おすすめの本「神道と日本人」

再び突然ですが、皆さんは宇宙の始まりをどう考えていますか? 宇宙に始まりがあるとすれば、その始まりの前はどうなっていたのでしょうか? 考えれば考えるほど不思議なことなので、たいていの方はここで思考がストップしてしまいます。

私も以前はそうでしたが、奈良の春日大社で出会った衝撃的な本にその答えがありました。春日大社の宮司である葉室頼昭さんが書かれた「神道と日本人」(春秋社刊)という本で、今の日本人が忘れてしまった大事なことが見事に書かれています。限られた紙面で私があれこれ書くよりも、まずはこの本を一読してください。そこまで言うのなら騙されたと思って読んでみよう!と思う方が一人でも出てくれれば幸いです。私が今まで読んだ本の中では間違いなく一番のおすすめです。

仕事について(2)

「地面に開いた穴を埋める作業が仕事だ」と言ったのは、解剖学者の養老先生ですが、まさに言い得て妙だと思います。読者の皆様の中にも、いま自分がしている仕事に疑問を持っている方が多いかもしれません。それを見分ける基準としては、「自分がした仕事で、喜んでいる人が増えているかどうか?」ということになるかと思います。

「儲かれば客のことなどどうでもいい」「売れさえすれば、地球環境のことなどどうでもいい」というように考えている会社や社員がいるとしたら、その企業は決して長続きはしません。そのように世の中はできているのです。今、問題になっている企業は原点を忘れたところばかりだと思います。皆さんも今の自分の状況に照らし合わせて、もしお客様に感謝されるような状況にないならば、まずは「どうしたらお客様(世の中)に感謝されるようになるのか?」を考えて実際に行動してみましょう。そしてどうしても悪い状況が変わらないのなら、そういう状況が実現できそうなところに自ら移るべきでしょう。「そう簡単にはいかないよ」という声が聞こえてきそうですが、各自がそうすれば世の中必ずや良くなるはずです。

最後に

今回の話は「星職人」というテーマから外れているかもしれませんが、私の中では次のように理解しています。私がこの業界に入ったのは、今まで書いてきたように数々の幸運に恵まれたこともありますが、よく考えると、もしかしたらこうなることは運命づけられていたのかもしれない、と感じるのです。そうなると、私の使命はただ望遠鏡を売って儲けるという次元の話だけではなく、この仕事を通じて、私が感じたことをみなさんに伝え、この日本を、この世界を良い方向に持っていく使命を神様から授かっているのではないか?と感じています。そう考えると、多少の困難で愚痴を言ったりめげたりしている場合ではなく、可能なかぎり「みなさんに喜んでもらえる製品、サービス、情報を提供し続けること」を銘として頑張り続けることだと思います。同様に、天体や野鳥に興味を持ったみなさんも、それは偶然ではなく、神様から何らかの役割を担っていると考えてみてはいかがでしょうか? 昨今の地球温暖化の問題は、まさに我々自然愛好家の出番だと思います。きっと何かが変わるはずです。とにかく、いい世の中になるように力を合わせて頑張りましょう!

次回は天体望遠鏡を使用した野鳥撮影、とくに最近流行の一眼デジカメを使用した超望遠撮影のことについて触れてみたいと思います。この連載の読者のなかにも、だんだん体力的に天体観測がきつくなっている方も多いかと思います。でも望遠鏡は大好きで何とか活用したいと考えている方には、天体望遠鏡活用+ウォーキングを兼ねた有効な手段かもしれません。ご期待ください。

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