天文との出会い
第1回 Writer:中川 昇

《中川昇プロフィール》

1962年東京生まれ。46才。小学3年生で天文に目覚め、以来天文一筋37年。ビクセン、アトム、トミーと望遠鏡関連の業務に従事。現在、株式会社トミーテックボーグ担当責任者。千葉天体写真協会会長、ちばサイエンスの会会員、鴨川天体観測所メンバー、奈良市観光大使。

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まずはアストロアーツというメジャーなサイトに連載を依頼していただいたアストロアーツの皆さんの勇気に感謝したいと思います。天文歴37年、天文業界歴24年という経験の中から感じたことや思うことを遠慮なく書き連ねていきたいと考えています。ボーグのサイトでは書けなかった業界裏話など、「面白くてためになるネタ」をモットーに、徐々に披露していくつもりですのでご期待ください。第1回目の今回は、私こと中川昇が天文の世界に足を突っ込むきっかけに触れてみたいと思います。長くなるので、何回かに分けてのお話になるかと思いますが、お付き合いいただければ幸いです。

私が子供の頃、天文に興味を持ってから、はっきりと決意したことがあります。それは、「将来、絶対に望遠鏡関係の仕事に就くんだ」という強い決意です。天文という趣味があまりにも面白いものですから、「将来は天文関係、それも望遠鏡を作る仕事に就きたい」「いや何が何でも就くんだ」と子供心に決意したことを今でもはっきりと覚えています。さらには、仮にも天文ファンたるもの、就職先に天文以外の仕事を選ぶなんて考えられないと本気で思っていました。今考えると何と頭の固い天文少年だったかと思いますが、当時は本気でした。

ポケット図鑑「宇宙と気象」

さて、そんな中川少年が、天体に興味を持ったのは小学校の3年生(1969年)のとき、業者が学校に図鑑を売りに来たときのことです。数ある図鑑のうち、私の目に止まったのは学研の「宇宙と気象?」というポケット図鑑でした。その図鑑にある数々の美しい天体写真が私の心を強く惹きつけました。さらには、その図鑑の巻末にある「望遠鏡の選び方」というページが気になって仕方がなくなり、気がつくと親を連れて、船橋の西武百貨店の文具売り場で4センチの屈折望遠鏡(当時¥9,800)を買っていたのでした。

今考えるとボーグと出会ったのは必然と思える偶然の事柄が重なりました。初めて買ったこの4センチの屈折経緯台は、初代ボーグと良く似たデザインで、ピラー内部にこそ収納は出来ませんが、太いピラー脚が特長の望遠鏡でした。中川少年はこの望遠鏡で月や太陽や火星を懸命にみまくったのでした。アポロ11号が月に着陸したのもこの頃だったと思います。

そのうち、お小遣いもたまり、さらに大きな望遠鏡が欲しくなった中川少年は、同じクラスの天文ファン直井君と出会うわけです。この直井君は、すでにプリンス光学の6センチ屈折赤道儀を持っていて、事あるごとに中川少年の4センチ屈径をバカにするのです。直井君の部屋には、それまで私が知らなかった「天文ガイド」(1973年11月号)が置いてあり、いつしか負けず嫌いの中川少年は口径で勝つしかないと考え、望遠鏡の広告を穴があくほど眺め続けたのでした。そしてついに、忘れもしない1973年12月24日、御茶ノ水駅からバスに乗って、東大の赤門前で下車、そこから歩いて成東商会(ダウエル)の門を叩き、115mm反射式赤道儀(当時¥33,000)を入手したのでした。一刻も早く望遠鏡をみたい中川少年は、当然のごとくお持ち帰り、大きなカートンに紐をかけてもらい、バスの運転手に白い目で見られながら、親とケンカしながら帰った事を昨日のことのように思い出します。生涯、このときのうれしさを忘れる事はないでしょう。私の望遠鏡人生の原点はここにあるといってもよいかと思います。

ダウエル社の当時の雑誌広告

さて、この望遠鏡ですが、決して性能の良い望遠鏡ではありませんでしたが、結果的にはそれが功を奏して、さまざまな工夫を自分でするということを自然と覚える事が出来ました。これは今のボーグにも通じると思うのですが、望遠鏡を使っていると、ああしたい、こうしたいという願望が次々と出てきます。あまりに完成度の高い望遠鏡だとその楽しみは限られるのですが、このダウエル製の望遠鏡は、完成度が低かったため、あちこち改造して、自分の使いやすい望遠鏡に仕上げるという新たな楽しみを中川少年に与えてくれました。ダウエル光学に感謝しなくてはいけませんね。

中川氏の入選作品掲載誌の画像

この望遠鏡は、ミラーや赤道儀をグレードアップしながら高校、大学と愛用し続け、この望遠鏡で撮影した天体写真は実に100枚以上フォトコンテスト等で入選し、賞金も大いに稼いでくれましたので、結果的には本当に良い望遠鏡にめぐり合ったと思っています。

このあと、カメラ店でのアルバイト→ビクセンでのアルバイト→ビクセンへ就職→アトムへ転職→トミーへ転職→ボーグの責任者へと遍歴を重ねます。その時々で運命としか思えない多くの出会いがありました。次回は、どのようにして中川青年がボーグへと導かれたのかに触れてみたいと思います。お楽しみに。

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