ディープインパクト続報・衝突で明らになった彗星の表面と、火星の水が失われたプロセス

【2005年7月13日 NASA Mission News (1) / PENNSTATE Eberly College of Science News(2)

7月4日テンペル彗星(9P/Tempel)への衝突を成功させたNASAのディープインパクト計画は、衝突させることだけが目的ではない。衝突後の様子を分析することによって新たな知見が続々と発表されている。ディープインパクト探査機のフライバイ機からは、彗星の表面が細かい粉に覆われている証拠がとらえられた。一方で、Swift(スウィフト)衛星の紫外線による観測では、インパクターが彗星の硬い表面に衝突したと考えられるという。様々な観測から、彗星についてこれまでにないほど様々な仮説が登場している。さらには、彗星だけでなく、火星のような惑星の歴史を探る上でも今回の衝突実験が役に立つという。


テンペル彗星はごつごつしたじゃがいもではなく、柔らかい粉ふきいも?

(衝突から50分後に捉えられたテンペル彗星の疑似カラー画像)

衝突から50分後に捉えられたテンペル彗星の疑似カラー画像。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/UMD )

ディープインパクトに搭載された機器が捉えたデータによれば、インパクター(衝突機)がテンペル彗星に秒速10キロメートルで衝突した際に、細かい粉が飛び散り雲となって広がったようだ。雲の不透明度や放出された光から、ちりが海岸の砂より細かく化粧用パウダー程度のサイズだとわかったとき、ディープインパクト計画の主任研究者も驚いた。多くの人は彗星といえば氷の塊でできていて、じゃがいものようにごつごつした表面を持つと考えていた。しかし、実際にはテンペル彗星の表面は細かな粉に覆われた、粉ふきいものような状態だったのだ。

太陽系内を旅する彗星が、どうして表面に細かな粉を残したままでいられるのだろうか? 答えは簡単だ。宇宙は真空空間で、太陽に照りつけられたり人類にインパクターをぶつけられたりしない限り、彗星は何者にもおびやかされることはないのだ。

衝突の前後にインパクターとフライバイ機の合わせて3つのカメラが撮影した画像は全部で4500枚ほど。研究者たちはその一枚たりとも見過ごさずに分析している。なかでも、もっとも貴重なのはインパクターが衝突する寸前の画像だ。彗星表面の4mの物体をも見分けることができ、これまでの彗星探査の10倍程度の分解能が得られている。また、突入した位置と角度を求めることは、衝突後の様子を解析する上で重要である。

蒸発したインパクターと彗星の物質は、秒速約5キロメートルで宇宙空間に広がっていった。また、衝突で形成されたクレーターの大きさは、まだ正確に決定されていないが、予測されていた範囲内の、直径50メートルから250メートルと見られる。一方フライバイ機は、時速3万7千キロメートルで彗星から遠ざかっており、すべての装置が良好に作動し続けている。


テンペル彗星は雪だるまではなく、硬い氷の塊?

Swift(スウィフト)衛星からは、どうやらインパクターが彗星の硬い表面に突き当たったことを示す観測結果が得られている。

NASAを中心として国際共同で開発されたSwift衛星は、ディープインパクトを複数の波長で同時に観測した。全8回(各50分程度)に渡った観測では、紫外線領域で急激にまぶしくなる彗星の姿が見られた。これは、インパクターが衝突した彗星表面が硬く、雪だるまの表面のようにやわらかいものではない証拠だという。観測された放出物のほとんどは彗星の物質で、元々表面にあった氷が衝突によって2000度にまで加熱されたものだ。

なお、リリース元では、衝突の前後で紫外線の強さが変化する様子の動画が公開されている。


彗星だけでなく、火星の研究にも役立つデータ

Swift衛星によるテンペル彗星のX線検出画像(衝突前) Swift衛星によるテンペル彗星のX線検出画像(衝突後)

(上)Swift衛星によるテンペル彗星のX線検出画像(衝突前)、(下)(衝突後)。クリックで拡大(提供:PENNSTATE Eberly College of Science News: X-ray Detections of Comet Tempel 1 Taken With Swift's X-ray Detector)

Swift衛星によるX線データも公開された。彗星の表面から巻き上げられた物質が、高エネルギーの太陽風にぶつかり、X線が放射される。そのX線の強さから衝突によって放出された物質の量が計測できる。分析によれば、その総量は数万トンにも及ぶという。

衝突の直後に観測される紫外線に対して、X線は少し遅れて届いた。なぜなら、紫外線が彗星の大気(コマ)の下層にある物質から放たれるのに対し、X線を放射するには物質は大気の上層まで到達しなければならないからだ。つまり、両方の波長で観測することにより、彗星の表面から蒸発した物質が遠ざかっていく様子がわかることになる。普通、彗星の表面の氷は少しずつ蒸発し、高速で大きなエネルギーを持つ陽子や電子である太陽風によって、原子やイオンに分解されていく。しかし、ディープインパクトにより、数億年分にも及ぶこの蒸発のプロセスが数週間で引き起こされた。

今回の観測によって得られる知見は、彗星に関するものだけではない。地球は磁場をもっているため太陽風からまもられている。しかし、数十億年前に磁場を失った火星では、大量の水が太陽風によって持ち去られたという。このプロセスについて、テンペル彗星の表面から蒸発する氷の様子から新たな知見が得られるかもしれない。


彗星: 彗星は太陽の周りを巡る太陽系天体の一員であることがわかっている。ハレー彗星や、最近の百武彗星、ヘール・ボップ彗星などは社会現象になるほどの天文界のスターである。彗星は、周期彗星として何度も太陽への接近を繰り返すものと、1度だけ太陽に近づいてそのまま太陽系のかなたに消えていくものがある。また、彗星はふつう、中心部に輝く核と、それを取り巻くボウッとした中性原子によるコマ(髪の毛の意味)、そして尾から構成されている。(最新デジタル宇宙大百科より)

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