2022年12月1日、約2年2か月ぶりに火星と地球が最接近します。約8100万kmまで近づきます。
2022年9月から2023年3月ごろまで明るく見えます。冬の星々と競うように赤く輝く光景は見ものです。おうし座の中を動きまわる様子も楽しめます。
見かけサイズはやや小さめですが、天体望遠鏡でも観察してみましょう。晩秋~初冬は木星・土星と共に、3惑星を見る好機です。
目次
火星を見つけよう
ひときわ目をひく赤い星
火星は地球との位置関係(距離)によって明るさが大きく変わる惑星です。今シーズンの火星は2022年8月下旬から2021年2月上旬までの約半年間、マイナス等級で(いわゆる1等星よりも明るく)輝きます。12月1日の地球最接近の前後にはマイナス1.9等級に達し、同時期に宵空で輝く木星には及ばないものの、よく目立ちます。
星座の中を動く火星
地球から見ると、火星は背景の星々の間を動いていくように見えます。
火星は天球上を西から東へと「順行(じゅんこう)」しながら、2022年8月上旬に「おひつじ座」から「おうし座」の領域へと移ります。10月30日の「留(りゅう)」まで順行を続けた後、天球上を東から西へと「逆行(ぎゃっこう)」するようになり、逆行期間中の12月1日に地球最接近、8日に「衝(しょう)」となります。
その後、2023年1月13日に再び「留」を迎えると、火星の動きは逆行から順行へと変わります。そして3月下旬に、7か月半に及ぶおうし座の期間を終えて、火星は「ふたご座」の領域に入ります。
期間中の火星の動きを、スケッチや写真で記録に残すと面白いでしょう。おうし座のアルデバランや「オリオン座」のベテルギウスと、赤い色や明るさを競い合う光景と併せてお楽しみください。
火星に関する現象カレンダー
2022年8月~2023年5月ごろに起こる、火星と月との接近などは、以下のとおりです。月との接近は、やや間隔は大きくなりますが前後の日にも見ることができます。恒星や星団などとの接近は、数日間見られます。
日付 | 現象 | 備考 |
---|---|---|
8月16日 | 西矩(せいく) | 太陽から90度西に離れる(深夜に昇り、日の出のころ南に見える) 黄道座標系では27日 |
8月20日 | 月(月齢22)と接近 (›› 解説) | 未明~明け方 |
8月中旬 ~下旬 |
おうし座の散開星団 M45プレアデス星団と並ぶ | 深夜~明け方 最接近21日ごろ |
8月下旬 ~9月上旬 |
おうし座の散開星団 Mel 25ヒヤデス星団と接近 (›› 解説) | 深夜~明け方 最接近9月3日ごろ |
9月上旬 ~中旬 |
おうし座の1等星 アルデバランと接近 (›› 解説) | 深夜~明け方 最接近7日ごろ |
9月17日 | 月(月齢20)と接近 (›› 解説) | 未明~明け方 |
10月14日 | 月(月齢19)と並ぶ | 深夜~翌15日明け方 |
10月15日 | 月(月齢20)と並ぶ | 宵~深夜 |
10月上旬 ~下旬 |
おうし座の超新星残骸 M1かに星雲と大接近 | 宵~明け方 最接近16日ごろ |
10月30日 | 留(りゅう) | この日を境に、天球上を東→西に動く(逆行する)ようになる |
11月11日 | 月(月齢17)と大接近 (›› 解説) | 宵~翌12日明け方 |
11月上旬 ~下旬 |
おうし座の2等星 エルナトと接近 | 宵~明け方 最接近21日ごろ |
12月 1日 | 地球と最接近 (›› 解説) | 11時17分/8145万km |
12月 8日 | 月(月齢14)と並ぶ | 未明~明け方 北米~ヨーロッパで火星食(日本時間13時ごろ) |
12月 8日 | 衝(しょう) (›› 解説) | 太陽の反対に来る(日の入りのころ昇り、深夜に南に見え、日の出のころ沈む) |
12月 8日 | 月(月齢14)と接近 (›› 解説) | 宵~翌9日未明 |
1月 3日 | 月(月齢11)と大接近 (›› 解説) | 夕方~翌4日未明 アフリカで火星食(日本時間4日5時ごろ) |
1月13日 | 留(りゅう) | この日を境に、天球上を西→東に動く(順行する)ようになる |
1月31日 | 月(月齢9)と並ぶ | 未明 |
1月31日 | 月(月齢9/10)と接近 (›› 解説) | 夕方~翌2月1日未明 太平洋、中米で火星食(日本時間13時ごろ) |
2月11日 | ズィーティーエフ彗星(C/2022 E3)と大接近 (›› 解説) | 夕方~翌12日未明 |
2月28日 | 月(月齢8)と接近 (›› 解説) | 夕方~翌3月1日未明 北極海で火星食(日本時間28日14時ごろ) |
2月下旬 ~3月中旬 |
おうし座の2等星 エルナトと接近 | 夕方~未明 最接近3月9日ごろ |
3月15日 | 東矩(とうく) | 太陽から90度東に離れる(日の入りのころ南に見え、深夜に沈む) 黄道座標系では17日 |
3月28日 | 月(月齢7)と大接近 (›› 解説) | 夕方~翌29日未明 |
3月中旬 ~4月上旬 |
ふたご座の散開星団 M35と大接近 | 夕方~深夜 最接近3月30日ごろ |
4月上旬 ~下旬 |
ふたご座の3等星 メブスタと超大接近 | 夕方~深夜 最接近14日ごろ |
4月26日 | 月(月齢6)と接近 (›› 解説) | 夕方~深夜 |
4月下旬 ~5月中旬 |
ふたご座の1等星 ポルックスと並ぶ | 夕方~深夜 最接近5月9日ごろ |
5月24日 | 月(月齢5)と接近 (›› 解説) | 夕方~深夜 |
5月下旬 ~6月上旬 |
かに座の散開星団 M44プレセペ星団と超大接近 (›› 解説) | 夕方~宵 最接近6月2日ごろ |
※2023年6月以降の現象については「星空ガイド」や「天文現象カレンダー」で順次ご紹介します。
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土星、木星も見よう
表面の模様を観察しよう
火星は小さい惑星なので、地球と接近するといっても見かけはあまり大きくなりません。表面の模様を見るためには天体望遠鏡が必要です。
火星は約24時間40分で自転しているので、見える模様も日時によって変化します。シミュレーションソフトなどで、どんな模様が見やすいのか確かめておきましょう。とくに目立つのは「大シルチス」と呼ばれる暗い部分です。
- 像が揺れると見づらいので、風の弱いときが観察に適しています。冬季は風が強く、気流が乱れていることが多いですが、好条件を逃さないようにしましょう。また、火星が南中する(真南に来る)前後の高いところにあるときは大気の影響が小さくなり、低いときよりも見やすくなります。
- 一見しただけでは、模様の濃淡は見えません。じっくり眺めていると、少しずつわかるようになってきます。
- 公開天文台や科学館などで開催される観望会(観察会、観測会)では、大きい望遠鏡で火星を見ることができます。お近くのイベント情報は、全国プラネタリウム&公開天文台情報ページ「パオナビ」で検索してみてください。
※新型コロナウイルス感染症対策として、事前申し込みや人数制限などの可能性があります。詳しくは施設やイベント主催者などにご確認のうえ、安全に注意してご参加ください。
見かけの大きさ
地球最接近となる12月1日の火星の見かけの大きさ(視直径)は17.2秒角で、同じ日の木星の4割弱です。また、100倍に拡大すると、肉眼で見た満月とほぼ同サイズになります。火星の視直径が15秒角を超えるのは11~12月で、この2か月間は口径10cm程度の天体望遠鏡でも模様が見やすいでしょう。
火星を撮影してみよう
カラーCMOSカメラを天体望遠鏡に接続して惑星を動画撮影し、その中から写りの良いフレームだけを選んで多数枚コンポジットすると、精緻で滑らかな惑星像を得ることができます。天体画像処理ソフトウェア「ステライメージ」を使うと、動画からのコンポジットはもちろん、カラーバランス調整やディテール強調まで簡単かつ詳細に行えます。画像を「作品」に仕上げてみましょう。
オンラインショップ
アストロアーツのオンラインショップでは天文グッズを多数取り扱っています。天体望遠鏡で火星の模様を観察してみましょう。火星と月との接近現象などを眺めるときには双眼鏡が便利です。赤色ライト付きボールペンや火星儀などもあります。
火星に関するマメ知識
赤い大地
太陽系で地球の1つ外側を公転している火星は、大きさ(直径)が地球の半分ほどしかない、水星に次いで小さい惑星です。表面の大部分を占める平原が酸化鉄(鉄さび)で覆われているため、火星は赤っぽい色に見えます。海と呼ばれる暗い部分や、長さ3000km深さ8kmに及ぶ太陽系最大級の峡谷「マリネリス峡谷」、周囲と比べて27kmも高い太陽系最大級の山である「オリンポス山」といった地形もあります。
両極部分には水と二酸化炭素の氷でできた極冠(きょくかん)があり、白っぽく見えます。極冠の大きさは火星の季節変化に応じて変化し、夏には小さく、冬には大きくなります。
2年2か月ごとに起こる
地球との接近
火星の公転周期(太陽の周りを1周する期間)は約687日です。火星が太陽の周りを1周する間に地球は約2周します。この公転周期の違いから、2つの惑星は約2年2か月ごとに距離が近づき、軌道上で隣り合わせになります。
地球と火星の最接近距離は、毎回異なります。火星の軌道は楕円形なので、軌道上のどこで地球と接近するかによって距離が大きく変化するのです(地球の軌道も楕円形ですが、火星ほどはつぶれていません)。2018年7月31日には6000万km弱まで近づき「大接近」として話題となりました。反対に「小接近」のときには1億kmも離れます。
※接近の度合いは「大接近」「中接近」「小接近」などと表現されますが、「○万km以内が大接近」のような明確な基準はありません。
火星探査
火星に生命は存在するのか(過去に存在したのか)、液体の水はある(あった)のか、地形はどのように作られたのか、大気が薄いのはなぜか、2つの衛星フォボスとダイモスの起源は、…。惑星や太陽系の形成と進化(時間変化)といった科学的興味から、将来の人類の移住可能性という観点まで、火星は人々の心を引き付けてやまない惑星です。
1960年代には早くもアメリカと旧ソ連が火星探査を始め、マリナー計画やバイキング計画によって詳しい地表の様子などが明らかにされていきました。現在はアメリカNASAの「マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)」や「メイブン(MAVEN)」、ヨーロッパ宇宙機関の「マーズエクスプレス」、インドの「マンガルヤーン」、アラブ首長国連邦の「HOPE」などが火星を周回しながら探査を行っています。
周回軌道からだけでなく、地表に着陸した探査車による調査もこれまでに複数行われています。NASAの「キュリオシティ」は2012年の着陸以来、10年以上にわたって地表を移動しながら土壌調査などの探査を行っています。
2021年に着陸したNASAの「パーサビアランス」のミッションでは、地球外の天体では初となる小型ヘリ「インジェニュイティ」の飛行実験にも成功しました。同じく2021年には中国の「天問1号」も火星に到着し、周回機と探査車「祝融」での探査を行っています。
日本では、火星の衛星からのサンプルリターンを試みる「MMX」計画が進められていて、2024年度の打ち上げを目指しています。今後も火星に関する様々な発見や研究成果が期待されます。