地球では考えられない!極限的でダイナミックな火星の気候

【2006年9月7日 ESA NewsJPL News Releases

火星の環境は、地球と似ている。一方で、火星は小さく、気圧もひじょうに低い。だからといって、火星で起きていることは地球上の現象を小規模にしたものとは限らない。ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の火星探査衛星マーズ・エクスプレスは、地球では考えられないほど極限的に薄い大気の中で形成される薄い雲を発見した。また、NASAの火星周回機マーズ・オデッセイの観測からは、南極では毎年爆発のような現象が起きていることが明らかになった。


火星の超高層雲

(マーズ・パスファインダーが捉えた火星の雲の画像)

マーズ・パスファインダーが捉えた火星の雲の画像。クリックで拡大(提供:NASA Pathfinder)

ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の火星探査衛星マーズ・エクスプレスに搭載された紫外・赤外大気スペクトロメータ(SPICAM)が、火星大気の高い場所に、ひじょうに薄い雲が浮かんでいるのを発見した。

雲の位置は高度80〜100キロメートル。そこでの大気圧はひじょうに薄く、地球上ではこんなに薄い大気で形成される雲はまず存在しない。また、気温が氷点下摂氏193度しかないことを考えると、雲の成分は水ではなく、二酸化炭素と見られる。

二酸化炭素が固まって雲を形成するには、「核」となる微粒子が必要不可欠だ。SPICAMは高度60キロメートル付近に直径100ナノメートルとひじょうに細かいちりが存在しているのを新たに発見していて、これが雲を形成するための核となっているようだ。ちりそのものは、風によって巻き上げられた地表の岩石片か、大気圏に突入した隕石に起源を持つと見られる。

この雲、火星の地表からも見えるかというと、そう簡単にはいかない。雲があまりにも薄いので、日が暮れた後に、暗い夜空を背景に太陽光を反射しているところしか観測できないのだ。当然、軌道上から雲を見たマーズ・エクスプレスもてこずっていて、大気を通して見た星がわずかにかすんだのを、何百回も観測して、ようやく存在を確認できたという。


火星の南極は毎年爆発する

(大量の砂やちりを吹き上げる二酸化炭素ガスのジェットの想像図) (春に火星の南極で観測された黒い斑点と扇型の模様)

(上)大量の砂やちりを吹き上げる二酸化炭素の噴射の想像図(提供:Arizona State University/Ron Miller)、(下)春に火星の南極で観測された黒い斑点と扇型の模様。クリックで拡大(提供:NASA/JPL/Malin Space Science Systems)

春、すさまじい地響きとともに、いたるところで二酸化炭素が噴出し砂を巻き上げる。これが、NASAの火星周回機マーズ・オデッセイによる観測データから、アメリカの研究チームが想像する火星の南極における光景だ。

南極の極冠には、いたるところに黒い斑点や扇形、さらには放射状の模様が見られる。斑点の大きさは15〜50メートルほどで、100メートル前後の間隔をおいて分布している。南極の冬が終わり、太陽に照らされるようになると斑点は現れ、数か月残った後に消えてしまう。しかし、次の年、再び新鮮な氷の上に現れる。中には、同じ場所に復活する斑点もあるようだ。

当初、斑点は氷が溶けて露出した地面ではないかと思われていた。しかし、マーズ・オデッセイが赤外線で熱放射を観測したところ、斑点の温度は氷とそう変わらないことがわかった。逆に、氷の上に黒い物質が重なっていて、下の氷によって冷やされていたのだ。ただ、斑点を中心に広がる放射状の模様だけは、氷が削れることでできていた。さらに、極冠の一部を連続撮影したところ、斑点は徐々に成長するのではなく、1週間もしないうちに一斉に形成されることもわかった。

以上の証拠から、次のようなシナリオが考えられる。極冠の下には永久に凍ったままの水の氷があり、薄い砂の層で覆われている。冬の間、徐々に凍った二酸化炭素、すなわちドライアイスが蓄積して、1メートルほどの層を形成する。そして、夏の日光はドライアイスを透過し、黒い色をした砂の層を暖める。その結果、ドライアイスの表面よりも先に、一番下の砂に接した部分が溶け出す。ただし、二酸化炭素は液体にならずに固体からいきなり気体になり(昇華)、急激に体積が膨張することで、地表へと爆発的に吹き出すのだ。

吹き出すガスの速度は、時速160キロメートルを超えている。扇形の模様の正体は、そのような噴出によって周辺に拡散した砂なのだ。一方で、ドライアイスの下では昇華した二酸化炭素による浸食が進んでいる。そのため、一点で噴火が起きると同時に、浸食されたドライアイスは引きはがされ、放射状の模様を形成しているようだ。

マーズ・オデッセイ撮像装置の主任研究員でアリゾナ州立大学のPhil Christensen氏は、極冠における噴火の様子をこう描写する。「そこにいるということは、ドライアイスの厚板の上に立っているようなものです。あなたの周囲では、うなり声をあげて噴出する二酸化炭素が数百メートル上空へと砂をまきちらしているでしょう。宇宙服のブーツを通じて、振動も感じるはずです。足下の厚板は、ドライアイスの気圧によって浮き上がっていますから」

地球と似ている火星

火星と地球はひじょうによく似ている。自転周期は24.62時間と地球とほぼ同じ。また、自転軸の傾きも25.2度と地球の23.4度度とほぼいっしょなので、地球のように四季がある。とはいえ、寒暖の差が激しい。冬の数か月間は極地用が「極冠」と呼ばれる白い模様で覆われるが、これは火星大気中の二酸化炭素がドライアイスとなって厚い層をなしているからだ。(「150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室」『火星が地球に似ているってほんと?』より)

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