銀河を飛び出し闇をさまよう超大質量ブラックホール

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【2012年6月8日 NASA

合体した超大質量ブラックホールが衝突時の重力波により銀河から弾き出されたと思われる様子が、40億光年かなたでとらえられた。


CID-42

40億光年かなたの銀河CID-42。X線では1つの光源しか見えないが、可視光でみると2つの光源が確認できる。クリックで拡大(提供:NASA/STScI/CFHT/CXC/SAO/F.Civano et al)

ほとんどの銀河の中心部には太陽の数百万倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在すると考えられている。そのブラックホールが銀河から時速数百万kmの速度で弾き出されている姿を、NASAのX線天文衛星「チャンドラ」がとらえた。2つのブラックホールが衝突し、そのとき発生した重力波の反動で弾き飛ばされたと思われる。

「重力波」とは宇宙の劇的な現象により生じる空間のゆがみの波のことで、アインシュタインによって存在は予測されているものの、直接観測されたことはない。

ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのFrancesca Civano氏らは、40億光年離れた銀河にある2つの接近した可視光源「CID-42」を研究してきた。分光観測では、2つの光源が時速400万km以上の猛スピードで互いに離れつつあるということが示されていた。

以前の「チャンドラ」の観測でもCID-42周辺に超大質量ブラックホール由来と思われる強いX線源が見つかっていたが、X線源が1つなのか複数なのかは明らかでなかった。新たな観測で確かめたところ、X線を放射しているのは2つの可視光源のうち1つのみであることがわかった。

研究チームはこの結果について次のように解釈している。2つの銀河が衝突し、それぞれの銀河の中心部にあった超大質量ブラックホールも衝突した。2つのブラックホールは1つに合体し、衝突によって発生した強力な重力波が新しくできたブラックホールを銀河の外に弾き飛ばした、というものである。もう一方の可視光源はあとに残った星団と思われ、合体ブラックホールが重力波の強力な反動を受ける可能性を示した最近のシミュレーション研究とも一致している。

ほかにも、3つの超大質量ブラックホールが衝突して1番軽いものがはじかれたという説と、2つのブラックホールが離れていくのではなく互いをらせん状に回転しているという説が可能性としては残っている。だがこの2つのシナリオでは2個以上のブラックホールが存在することになるため、X線源が1つしか見つかっていないというチャンドラの観測は、最初のシナリオの可能性を高めるものなのだ。

「太陽より数百万倍も重い超大質量ブラックホールが、驚くほどの速度で銀河の外側に移動できたとは、本当に信じられませんでした。しかしこの新しい観測結果は、重力波によって非常に強い力が発生しうるという可能性を示しているのです」(Civano氏)。

ある1つの方向に強い重力波が放射されることで超大質量ブラックホールが銀河から弾き出されるのは非常に稀な現象だと思われる。しかし稀だとしても、銀河と銀河の間の広大な空間の中を放浪している未確認大質量ブラックホールは多数存在するのかもしれない。

「このような放浪ブラックホールは観測できないでしょう。元の銀河からはじき出されたあと、周囲のガスをすぐに使い切ってしまうからです」(同センターのLaura Blecha氏)。