[チャンドラ] 巨大ブラックホールが支配する初期宇宙の姿を発表

【2001年3月20日】

NASAのX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」が超長時間露光でとらえた「チャンドラ・南ディープフィールド」「チャンドラ・北ディープフィールド」という2枚の画像が発表された。「南ディープフィールド」はジョーンズ・ホプキンス大学のチーム、「北ディープフィールド」ペンシルバニア州立大学のチームによる。両画像とも、巨大ブラックホールを持つひじょうに遠方の活動銀河やクエーサーを多数とらえており、初期の宇宙が多数のブラックホールにより支配されていたことが確認された。


チャンドラ・南ディープフィールド

チャンドラ・南ディープフィールド

ジョーンズ・ホプキンス大学のチームは、南天の「ろ座」の一角を、チャンドラの高度CCD撮像分光器ACISを用いて総計10.8日間 (100万秒に近い) にわたる超長時間露光を行ない、この画像を得た。1999年10月〜2000年12月にかけ、11回に分けて露光した。南天の「ろ座」の一角をとらえており、視野は16分角 (1分角=60分の1度) 四方。色はX線のエネルギーに対応しており、赤いほど低エネルギーで、青いほど光エネルギー、緑はその中間。

この領域は、私たちの銀河系内の恒星間ガスやチリが少ない領域で、遠方の宇宙に開かれた穴としてしられる。この画像にとらえられている天体のほとんどは、巨大ブラックホールを持つ遠方の活動銀河核 (AGN) やクエーサー (特に明るいAGN) だ。およそ120憶光年の彼方にある天体もいくつかとらえられており、X線画像としては観測史上で最も遠くまでとらえた画像である。その他、通常の系外銀河・銀河群・銀河団もとらえられている。

観測チームのRiccardo Giacconi氏 (ジョーンズ・ホプキンス大学、Associated Universities社) によると、この画像から、巨大ブラックホールは昔、現在よりもずっと活動的であったことがわかるという。

観測チームは、チャンドラの観測結果をヨーロッパ南天天文台 (ESO) の8.2メートル望遠鏡「VLT ANTU」を用いてチャンドラがとらえた300個以上の天体のうち約100個の可視光スペクトルを得、赤方偏移などを調べた。

これらの結果、宇宙の全方位から一様に観測される「硬X線背景放射」(硬X線=高エネルギーX線) の起源が、主にAGNであることが判明した。中でも特に、80億光年〜90億光年の彼方に主に分布し、厚いチリに覆われているため比較的弱い放射しか放たない、いわば「低輝度AGN」が大部分を占めることがわかった。それらの低輝度AGNは、淡すぎるためこれまでのX線観測では検出することができなかったものだ。

また、約12億年彼方にある2型クエーサー (Type II Quasar) も発見された。2型クエーサーは、可視光では明るく見えないのにX線で見ると明るく見える希少なタイプのクエーサー。くわしくは、アストロアーツ・ウェブニュース「チャンドラが希少型ブラックホールを発見」を参照してほしい。

Image credit: NASA/JHU/AUI/R.Giacconi et al.


チャンドラ・北ディープフィールド

ハッブル・北ディープフィールド&チャンドラ・北ディープフィールド
左はハッブル宇宙望遠鏡による「ハッブル・北ディープフィールド」。右は「チャンドラ・北ディープフィールド」の一部で、「ハッブル・北ディープフィールド」に対応する部分。

ペンシルバニア州立大学のチームは、「おおぐま座」の一角を、ACISを用いて総計5.8日間にわたる超長時間露光を行ない、「チャンドラ・北ディープフィールド」と題された画像を得た。1999年11月〜2001年2月にかけ、7回に分けて露光した。「チャンドラ・南ディープフィールド」と同様、はるか彼方の宇宙の姿をとらえることに成功している。色はX線のエネルギーに対応しており、赤いほど低エネルギーで、青いほど光エネルギー、緑はその中間。

観測チームが撮影した領域は、ハッブル宇宙望遠鏡による超長時間露光画像「ハッブル・北ディープフィールド」に対応する領域だ。この領域も、銀河系内のガスやチリが少なく、遠くまで見渡せる領域として知られる。電波〜可視光のあらゆる波長域で詳細に研究されてきている領域であり、今回のチャンドラの観測により、X線での観測データも加わったことになる。なお、チャンドラが撮影した領域は、ハッブルが撮影したものよりもずっと広いが、ここではハッブルの画像に対応する部分のみ掲載しており、視野は2.5分角四方だ。

チャンドラの画像うち、ハッブルの画像に対応する部分には、12個のX線源がとらえられており、それぞれハッブルの画像に写っている天体と同定された。このうち半数ほどは、巨大ブラックホールを持つAGNやクエーサーだ。残りの天体はAGNやクエーサーに比べるとずっと淡いが、それらには比較的近傍の系外銀河も含まれる。それらの近傍系外銀河からのX線放射は、銀河内の複数の (場合によっては1つの) 比較的明るいX線源――伴星を持つ低質量ブラックホール、高温ガス、超新星残骸など――からの放射の集合であると考えられる。

観測チームは、若いブラックホールの場合、厚いチリとガスに覆われていることが多いということも発見している。

観測チームは最近、追加の露光を行なっており、追加露光のデータを組み込めば「チャンドラ・南ディープフィールド」に匹敵する露光時間の画像ができあがることになる。

Image credit: NASA/PSU/G.Garmire, N.Brandt et al.