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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

コペルニクスの仕掛人 中世を終わらせた男

表紙写真

  • デニス・ダニエルソン 著/田中靖夫 訳
  • 東洋書林
  • 四六判、333ページ
  • ISBN 978-4-88721-748-5
  • 価格 3,360円

評者の知る限り、我が国(そして多分世界でも)唯一のゲオルグ・ヨアヒム・レティクスに関する伝記書。みなさんはレティクスという数学者の名前を聞いたことがあるだろうか? 聞いたことがある方でも、確かコペルニクスの「天球の回転について」が出版されるときにいた人だよな、と覚えている程度ではないだろうか?

評者は、科学史上、途中で失脚したといわれていたこの謎の人物の運命に、昔から強烈な関心を持っていた。なぜ、誰も信じなかった地動説に異常に奮い立ち、はるばるポーランドの僻地まで押しかけ、出版をたきつけ、途中で行方不明になってしまったのか(実はスキャンダルを交えた多大なドラマがそこにあった)。だが、資料・参考書がまるでなく、無為に40年以上が過ぎてしまったのだ。

本書原題 "THE FIRST COPERNICAN" が全てを物語る。彼こそが最初のコペルニクス信奉者であり、地動説をコペルニクス以上に正しく説明した人であり、この人がいなかったら、著者が言う通り地動説は世に出なかったのである。コペルニクスとケプラー、ガリレオをつなぐ「時代の人」、それがレティクスなのだ。本書は天文学史に少しでも関心をもたれる方必読の書である。高価ではあるが、その数倍は価値ある本である。と同時に、幼児期に父親の処刑という過酷な処遇を体験したことで時代の叛逆者(少なくとも一匹狼)になったのではという、訳者の指摘も考えさせられる。また、カトリックとプロテスタントの宗教対立の間で、知識人として揺れ動かされた天才の苦悩をも、本書からは読み取ることができる。本当に歴史的な名著である。

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