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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

グリニッジ・タイム  世界の時間の始点をめぐる物語

表紙写真

  • デレク・ハウス 著/橋爪若子 訳
  • 東洋書林
  • A5変型判、280ページ
  • ISBN 978-4-88721-730-0
  • 価格 2,940円

評者はこれまで標準時制定に関する書物を数冊読み、いずれも大変勉強になったが、本書はその中でも読みやすさ(地理学で博士号取得、カナダと豪州の政府機関で従事した経歴を持つ訳者の力量にも負う)、引用資料の豊富さと確かさで出色のものとなった。著者は、1958年に英国海軍の航海士を少佐で退役し、1963〜83年にグリニッジの海事博物館航海・天文学主事となった方。この本を支える資料がきわめて豊富なのはそのためだ。ハリソンのクロノメータ製作や鉄道時間の一本化のためのグリニッジ天文台長エアリーの努力などもすばらしい記事だが、評者にはとくに、第5章の本初子午線や第6章のグリニッジ標準時の記事が考えさせられた。すなわち、本初子午線や日付変更線の制定で当時の先進国優位主義が歴然だったことである。特に日付変更線の決定で本初子午線を日付変更線にしなかった理由は、欧州人にとって不都合だったからだ。24時間制を世界共通に採用していたら、本初子午線の東と西で日付が変わらざるを得なくなったはず。東方向に時間をプラス、西方向にマイナスとしたのはそれが理由で、欧州を日付で真二つにすることを避けたのは、明らかに欧州人の都合である。彼らはそれをオセアニアに押し付けたのだ。海が無い火星でそれを決めなくてはならない将来は、いったいどうするのだろうか。火星人がいなくて良かった!

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