Location:

Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

望遠鏡以前の天文学 古代からケプラーまで

表紙写真

  • クリストファー・ウォーカー 著/山本啓二、川和田晶子 訳
  • 恒星社厚生閣
  • A5判、408ページ
  • ISBN 978-4-7699-1085-5
  • 価格 5,040円

評者はこれまで何十年もの間に相当数の天文学史書を読み、また本書評でもご紹介してきたが、本書は最高の史書であり研究書である。思うに、研究者は本書をもって最新の最古の科学の研究ができるだろうが、研究者ではない評者ができることと言えば、それはただ一つ、良い本をできるだけ広く皆さんにご紹介することだ。

本書は、一人の研究者が著作したものではなく(多分そんな時代は既に終了したのだろう)、有名なパトリック・ムーア(序文)を始め、欧米の15名の故人を含む第一線の天文学史家が分担した著作集である。それだけに力が入っており、それぞれの研究時代ごとに深く説明が展開されている。エジプト・メソポタミア・ギリシャ・インド・イスラム、そして中国・朝鮮・日本天文学のどこをとっても凄い内容で、凡人の評者ですら、できればもう一度大学に入学して、さらにできれば欧米に留学して、天文学史を勉強したいと思うほどである。でも、養わなければならない家族もいるし、変光星の観測もあるし、プラネタリウムで解説もしたいし、ウウンっ!

プトレマイオスの天動説をこれほどまで詳細に解説している本を、評者は知らない。またコペルニクスが地動説を思い立った動機が、単なる懐古趣味ではなく、これほどまでに深く哲学し、当時としては最高の科学的方法を駆使したものだと言うことも評者は思い至らなかった。恥ずかしく思うほどである。

コペルニクスを評価したケプラーの言葉「自分自身の持つ豊かさに気づかなかったコペルニクスは、もっぱら、自然ではなく、プトレマイオスを代弁することを引き受けたのだ。それにもかかわらず、彼は誰よりも自然に近づいた人物であった」。額にいれて書斎コーナーの壁に飾っておこう。

ともかく、本書は値段の百倍、千倍もの価値がある。評者は、本文をこれから何度も読み返さねば完全には理解できなそうだが、美麗な写真や説明図には老眼鏡を外し目玉を近づけて隅々まで見入ってしまった。訳者と訳本出版社の方々に深く感謝したい。

ガリレオによって望遠鏡天文学と言うべき時代が拓かれた。では、それ以前はどんな時代だったのだろう。本書は古代エジプト、古代メソポタミア、古代ギリシャからはじまり、インド、イスラーム、そして中国・朝鮮・日本の東洋まで、それぞれの時代や地域を専門とする考古学者や科学史家が分担執筆し、天文学の発展の歴史をひもとく。各様に工夫された暦のしくみは難解だが興味深い。最終章ではティコの新星などを例にして、古天文学を一気に現代の天文学に結びつける。原著は大英博物館の出版部が刊行した物で、イギリスの天文界の重鎮、パトリック・ムーアが構想時から関わり、序文も寄稿している。

この本を購入する [Amazon.co.jp]