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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

ローバー、火星を駆ける 僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢

表紙写真

  • スティーヴ・スクワイヤーズ 著/桃井緑美子 訳
  • 早川書房
  • 四六判、502ページ
  • ISBN4-15-208860-5
  • 価格 2,625円

まずビックリするのが巻末付録にある4000を超える人々の名前。マーズ・エクスプロレーション・ローバー・プロジェクトに関わった人のリストだ。これだけで、全てを語る。松浦晋也さんのすばらしい解説にあるとおり、本書は「米国という世界で最も恵まれた環境にいる惑星科学者たちがどうやって火星探査を実現し、あるいは何十年もかけて全精力を傾け、人生の全てを捧げ尽くした上で失敗するのか」を語っているのである。政治家や官僚を口説き、口出しを受け、やっとこさっとこ開発段階に持ち込んでも、資金不足・技術上の問題・政治圧力などなど。さらに、打ち上げ後はロケットや火星の一日に合わせた生活を続ける。家族も含め、この人たちの苦労はいったい何のため? そのことが、全編に渡って良くわかる本である。すなわちそれはただ一つ、「前人未到の世界に踏み入り、世界の秘密を解明する」全科学者共通の喜びだけなのだ。

まさしく波乱万丈、次から次へと起こるさまざまな事件、事故、計画変更、仲間との試練、着々とはまったく行かない本当のドラマ。活劇ではないけれど、読んでいて手に汗握る本なのだ。

1977年、学部学生時代の著者が、バイキングなどが撮影した写真の資料室に入って、はるか遠くの未知の世界を探検したことが、彼の一生を決めたという。本書はそれから2004年までの迫真のドキュメントであり、火星探査に関する実にすばらしい資料集にもなっている。宇宙開発50周年をむかえた今、ぜひ多数の皆さんに本書を熟読してほしいものだ。

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