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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

鉄学 137億年の宇宙誌

表紙写真

  • 宮本英昭、横山広美、橘 省吾 著
  • 岩波書店
  • B6判、115ページ
  • ISBN 978-4-00-029561-1
  • 価格 1,260円

評者の宇宙学と地球物理学の知識を一新させた快書。東京大学の先生方が最新の情報にもとづき、主に学者ではない人向けに書いた本。そのキーワードは「鉄」である。

宇宙に関心が深いみなさんには、本書を第4章「地球と太陽系」、続いて第5章「鉄の起源」から読み始めることをおすすめする。その次に、宇宙論に強い方は第6章「物質はどのようにして生まれたか」を、歴史や人類学・生物学に強い方は、第1章「137億年の鉄学」第2章「鉄とわたくしたち人類」第3章「地球生命と鉄」と読み進むのがわかりやすい。基本的に現代から10のX乗年(Xは0から10まで)ごとに時代分けされている。

本書によると2008年冬、科学誌「ネイチャー」の姉妹誌に「新しい鉄の時代」という記事が掲載されたという。それに続き、2009年夏から東京大学総合研究博物館で「鉄展」が企画開催されている。本書は同企画の中心メンバーが執筆した。

鉄が近代文明を作ったばかりでなく、今後も超伝導や半導体などに鉄の錯体を利用することなどで新しい鉄文化の発展が期待できると著者らは論じる。一方、地球磁場や気候変動に鉄が大きくかかわってきたことや、地球温暖化と植物性プランクトンと塵に含まれる鉄との関連など、最新の研究成果も詳細かつわかりやすく説明されている。

また近年大注目の系外惑星の研究で、鉄の存在度が系外惑星形成に大きくかかわっているそうだ。我が太陽を生み出した超新星爆発や銀河の誕生、さらにビッグバンまで、鉄が深く関連していることになる。著者らも主張されるように、いまや自然哲学は宇宙鉄学と呼ばなければならないのではないだろうか。ともかく、本書は面白い。

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