太陽1億4000万個分 銀河中心の超大質量ブラックホール

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アルマ望遠鏡による観測を元にしたモデル計算で、棒渦巻銀河NGC 1097の中心に存在する超大質量ブラックホールの質量が太陽の1億4000万倍であると算出された。銀河と超大質量ブラックホールは共に進化してきたと考えられており、その関係を議論する上でブラックホールの質量は非常に重要な情報となる。

【2015年6月22日 アルマ望遠鏡

銀河の中心には高い確率で巨大な(非常に重い)ブラックホールが存在すると考えられており、太陽の数百万倍から数百億倍もの質量を持つものは「超大質量(超巨大)ブラックホール」と呼ばれる。超大質量ブラックホールの質量とそれを含む銀河(母銀河)の中心部(バルジ部)の質量や明るさとの間には相関があることがわかってきており、母銀河の成長・進化に超大質量ブラックホールが大きく影響していることが示唆されている。

この関係を調べるには超大質量ブラックホールの質量を求めることが重要となる。ブラックホールの重力の影響を受けた天体の動きを測定すれば質量を推定することが可能だが、高解像度の測定が必要だったりブラックホールの重力以外の影響を考慮する必要があったりするため、算出は容易ではない。

VLTが可視光で観測したNGC 1097
ヨーロッパ南天天文台の大型望遠鏡(VLT)が可視光線で観測したNGC 1097(提供:ESO/R. Gendler)

総合研究大学院大学の大西響子さんらのチームは、ろ座の方向約5200万光年彼方にある棒渦巻銀河NGC 1097をアルマ望遠鏡で観測したデータを用いて、銀河中心にある超大質量ブラックホールの質量導出に挑んだ。研究チームが用いたのは、銀河中心付近の分子ガスの分布と運動の様子を電波観測から精密に測定するという手法だ。分子ガスは周囲の影響を受けにくいので動きを測定しやすく、ブラックホールの質量を求めるのに有効である。

アルマ望遠鏡で観測したNGC 1097中心部
アルマ望遠鏡で観測したNGC 1097中心部。シアン化水素(HCN)の分布を赤、ホルミルイオン(HCO+)の分布を緑で表現し可視光線の画像に合成。黄はHCNとHCO+の両方が存在する領域(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Onishi (SOKENDAI), NASA/ESA Hubble Space Telescope、以下同))

観測結果を元に天体モデルを作成し、分子ガスの動きを再現するような条件を調べた結果、NGC 1097の中心にある超大質量ブラックホールの質量は太陽の1億4000万倍であることがわかった。晩期型銀河(渦巻銀河や棒渦巻銀河)に対し、この方法で超大質量ブラックホールの質量が測定されのは今回が初めてのことだ。

アルマ望遠望遠鏡で観測したHCNガスの運動を色で表した画像
アルマ望遠鏡で観測したHCNガスの運動を色で表した画像。赤はガスが私たちから遠ざかる方向、紫はガスが手前に近づく方向への運動を表す

大西さんは「アルマ望遠鏡は、わずか2時間ほどの観測でNGC 1097中心部のガスの運動データを得ることができました。銀河とその中心にある超大質量ブラックホールの関係を明らかにするには、多くの、そして様々なタイプの銀河でブラックホールの質量を求める必要がありますが、アルマ望遠鏡を使えば現実的な時間で多くの銀河の観測を実行できます」と、アルマ望遠鏡での今後の観測に期待を寄せている。

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