太陽100億個分 最大級のブラックホールを発見

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【2011年12月8日 ジェミニ天文台

米ハワイにあるジェミニ北望遠鏡の観測で、太陽100億個分という、これまでで最大質量のブラックホール2つが近隣の別々の銀河に見つかった。アメリカとカナダの研究チームによるもので、現在の宇宙において大型ブラックホールがどこにひそんでいるかという謎の一端を明かす成果だ。


NGC 3842のブラックホール

しし座銀河団(Abell 1367)の銀河NGC 3842で見つかったブラックホールのイメージ図。中心の黒い部分がブラックホールで、右下の太陽系イメージに比べても事象の地平線()がかなり大きいのがわかる。クリックで拡大(提供:P. Marenfeld/NOAO/AURA/NSF)

100億年以上前、誕生して間もないころの宇宙には、超大質量ブラックホールが多く存在したと考えられている。このことは、これらのブラックホールを擁したクエーサーからの光により判明した。クエーサーとは、非常に明るく光る活動的な銀河の中心核(と考えられている天体)で、遠方にあっても観測できるため、宇宙の過去をさかのぼって見ることができるという天体だ。

では、これらのブラックホールは現在どこでどうなっているのか。その答えとなるのが、Chung-Pei Ma氏らの研究チームによる、太陽100億個分もの質量を持つ2つのブラックホールの発見だ。2つの超大質量ブラックホールが見つかったのは、ひとつは3億2000万光年先のしし座銀河団にあるNGC 3842、もうひとつは3億3600万光年先のかみのけ座銀河団にあるNGC 4889で、いずれもアマチュア向けの天体望遠鏡でも見える巨大楕円銀河である。これまでは2011年1月に発表された、M87銀河(おとめ座)にある太陽の63億倍の質量を持つブラックホールが最大記録だった。

「初期の宇宙では非常に活発なクエーサーだったものが、現在見られる静かな巨大楕円銀河になっていったのでしょう。これらの銀河の中心にあるブラックホールはガスを引き寄せるような派手な活動はせず、ひっそりと目立ちません。そばを回る恒星に及ぼす重力でやっとその存在がわかるのです」(Ma氏)。

見つかったブラックホールがブラックホールの質量の限界なのかについては、「大きな銀河ほど大きなブラックホールが存在します。どれだけ大きくなるかは、最初から決まっているのか、それとも成長過程による違いなのかはまだわかりません」とのことだ。

100億光年以上かなたの初期宇宙に比べれば近いとはいえ、これらが見つかった銀河の中でブラックホールから1000光年の範囲にある恒星を見分けるのは難しい。だが、最良の観測条件で最先端の技術を駆使することで、ブラックホールに十分近い恒星を観測し、その恒星に重力で影響を及ぼすブラックホールの質量測定に成功し、今回の発見につながった。

現段階では、これがたまたま発見された稀な例なのか、それとも同じようなものがこれから次々と見つかるのかはわからない。だが、研究チームは今後数年間かけて天の川銀河近隣の大型銀河から同程度のブラックホールを探索し、過去の宇宙で成長する大型ブラックホールが多数あったことを証明していくという。

注:「事象の地平線」 ブラックホールの周囲で「ここからより内側からは光も抜け出せない」という限界のところ。