時と空を超えて ゆかりの地・神戸で見た「金星紀行」

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【2012年6月6日 太陽観測衛星「ひので」/アストロアーツ】

6月6日の朝から昼すぎにかけ、世界各地で「金星の太陽面通過」が見られ、日本でも5月21日の日食に続く天文イベントとして注目を集めた。


太陽面を横切る金星のシルエット

太陽面を横切る金星のシルエット(左上の黒い点)。黒点も多く見られる。クリックで拡大(6日10時22分、神戸市諏訪山公園にて門田健一撮影)

金星台での観測会

観測会に訪れた小学生も大はしゃぎ。この子たちにとっても次回を見るのはちょっと難しいほどのレアな現象だ。クリックで拡大(撮影:星ナビ編集部)

フランスの観測記念碑

公園の奥には、フランスの観測隊が建てた観測記念碑が残されている。クリックで碑の上部を拡大表示。現象の図が刻まれている(サムネイル画像撮影:星ナビ編集部)

望遠鏡で投影した太陽像

望遠鏡で投影した太陽像には、金星や黒点がはっきりと映し出された。クリックで投影部分を拡大(サムネイル画像撮影:星ナビ編集部)

太平洋沖を通過した台風3号の影響で関東を中心に悪天候が予想された6日の朝、アストロアーツスタッフの多くは晴れを求めて西日本や北陸に向かい、そのうち5名が早朝の新幹線で神戸に向かった。

約130年ごとに8年おいて2回起こる「金星の太陽面通過」が日本で初めて観測されたのは、アメリカ、フランス、メキシコからの遠征観測隊が訪れた1874年。当時フランスの遠征隊が観測を行った神戸市中央区の諏訪山公園では、公園の利活用に関わる活動を行う「諏訪山公園ミーティング」と神戸市立青少年科学館が協力して観測会が開催されていた。

「金星台」と呼ばれる公園内の広場は、現象が見られた数時間もの間、常に大盛況。地元の子どもたちや高校生までが入れ替わりに観察に訪れ、日食めがねや用意された専用望遠鏡で小さな金星の姿を追った。時おりかかる雲をみんなで仰いで追いはらう作戦も大成功(?)。多数駆けつけた地元メディアを前にそのパワーを見せつけた。

また大人の天文ファンも多数集結。視力により観察めがねでは見えないという人も投影板に映された大きな太陽像で確かめたり、会場の一角に設置された解説パネルを眺めたりして楽しんだ。一方、最高気温29℃に達する暑さの中、長時間の観察で消耗し木陰でひと休みする人も。

現象終盤となる昼すぎにはやや曇りがちになったものの、金星が太陽面の外に出かかる午後1時半ごろには直射日光が戻り、105年後まで見られないヴィーナスの姿を惜しみつつ投影板で見送った。太陽の輪郭にわずかに残る金星のシルエットが完全に消えた午後1時48分、一斉に拍手が起こり、約6時間半におよぶ天体ショーは幕を閉じた。

1874年につづく1882年の現象時は、日本では夜明け前だったため観測できず、2004年は全国的に悪天候となった。今回は5月21日の金環日食に続く天文イベントということもあって注目度も高く、太陽を横切る黒い点を天文ファン以外も含めた多くの日本人が目撃した史上初めての例とも言える。太陽系という広大な空間、そして人間にとってはいささか長い100年という時間、まさに「宇」と「宙」を感じる一日となった()。

なお、ニュース編集部独自の計算によれば、8年後や16年後にも地球から約40万km離れたところで金星の太陽面通過が見られる。地球からもっとも遠いときの月と同等の距離だから、今後の有人宇宙開発の展開によっては、人類が再びこの現象を目にする日は意外に近いのかもしれない。


衛星「ひので」による迫力画像

「ひので」が撮影した金星の太陽面通過

彩層(太陽表面の大気)をバックに、太陽面を横切る金星の姿。クリックで拡大(提供:国立天文台/JAXA)

今回の珍しい現象を、日本の太陽観測衛星「ひので」も撮影した。「ひので」プロジェクトのウェブサイトでは、X線望遠鏡や可視光・磁場望遠鏡でとらえた画像や動画が公開されている。地球の昼夜の境界を周回する軌道から、太陽観測衛星としては最大口径の望遠鏡でとらえた画像には、太陽表面の様子や、金星の輪郭が光ることで大気の存在を示す「オレオール現象」がくっきりととらえられている。

「ひので」の観測により、オレオール現象から金星大気を調べるほか、普段は見られない「金星の夜側」の観測から新しい発見を探る。

注:「宇」と「宙」 「宇宙」という言葉の語源について、「宇」=空間、「宙」=時間、とする説がある。