国内最大級スーパーコンピュータが明かした、ブラックホールのジェットメカニズム

【2010年10月25日 国立天文台

国立天文台のスーパーコンピュータ(Cray XT4)が、新タイプのブラックホールのジェット生成モデルを再現することに成功した。従来のモデルは問題点を抱えていたが、Cray XT4を駆使した大規模なシミュレーションによってそれらが解決され、宇宙でもっとも強力なジェット現象を説明する最有力モデルが登場した。


(新タイプのプラックホール・ジェットのコンピュータ・シミュレーション画像)

新タイプのプラックホール・ジェットのコンピュータ・シミューレーション画像。クリックで拡大(提供:国立天文台)

(新タイプのプラックホール・ジェットの概念図)

新タイプのプラックホール・ジェットの概念図。クリックで拡大(提供:国立天文台)

ブラックホールはガスを吸い込むだけでなく、光速に近い速度で、細く絞られたガスの流れを噴出することが知られている。この噴出(ジェット)は宇宙でもっとも激しいガス噴出現象の1つだ。しかし、強力な重力で周囲のガスを吸い込むブラックホールが、なぜ逆にガスをジェットの形で噴出するのかは解明されていない。

従来のジェット生成に関するモデルは2つあり、その1つは磁気によるもの、もう1つは光の力によるものであった。前者はバネのように巻いた磁力線によってジェットが細く絞られるが、大量の物質を吹き飛ばせないという短所があった。後者は光の力によって大量の物質を吹き飛ばせるものの、ジェットを細く絞れない点が問題であった。

国立天文台天文シミュレーションプロジェクト(CfCA)の大須賀健助教、京都大学大学院理学研究科宇宙物理学教室の竹内駿氏(元大学院生、現富士通)および嶺重慎教授の研究チームは、ジェットの形成メカニズムの解明を目的に、国立天文台のスーパーコンピュータ(Cray XT4)を用いて、大規模なシミュレーションを行った。

その結果、光の圧力と磁場を巧妙に組み合わせた、これまでになかったタイプのメカニズムが世界で初めて再現された。同モデルで再現された、従来のジェットモデルに比べてより高速でかつ細く絞られたジェットは「ハイブリッド・ブラックホールジェット」と名付けられた。研究チームは、ジェットの駆動メカニズムとして従来から有力視されていた光の圧力と磁場の力という2つの力を巧妙に組み合わせたモデルを提唱したのである(画像1枚目)。

研究チームが再現したジェットは、磁場の力で細くしぼられ、光の圧力で加速されるタイプだ(画像2枚目)。大量のガスがブラックホールに吸い込まれる際にガス中の磁場が増幅され、バネのようにぎっしり巻いた磁場構造が形成される。この構造は磁気タワーと呼ばれ、ジェットを細く絞りこむ。同時に、ガスが放射した光の圧力が噴出ガスを加速するため、細く絞られた高速ジェットが発生する。この研究は、宇宙でもっともパワフルなジェット噴出を自然に説明することに成功したものと言える。

ブラックホールに吸い込まれるガスに働く光と磁場の力を同時に解くには高度な計算技術と超高速計算機が必要なため、これまでは実行が困難であった。研究チームは、国立天文台天文シミュレーションプロジェクト(CfCA)のスーパーコンピュータ(Cray XT4)を約2週間稼動することによって、新タイプのジェットのメカニズムの再現にいたった。

研究チームではさらに大規模なシミュレーションを行い、ジェットが周囲の星や銀河の進化に与える影響を解明することを計画している。