初めて再現された、超新星1987Aの立体的な姿

【2010年8月6日 ESO

超新星1987Aから放出されたガスの速度を調べた結果から、超新星残骸のちりの分布が初めて立体的に再現された。超新星1987Aでは物質が非対称象的に放出されたことがコンピュータ・シミュレーションによるモデル計算で示されていたが、その予測を裏付ける観測的な証拠が初めて得られた。


(周辺の物質分布をもとに作成された超新星1987Aの周囲の想像図)

周辺の物質分布をもとに作成された超新星1987Aの周囲の想像図。クリックで拡大(提供:ESO/L. Calçada)

超新星1987Aは1987年2月23日、地球から約16万光年離れた近傍銀河の大マゼラン雲に出現した。

この時、崩壊した星の中心核から放出されたニュートリノが初めて検出された。また、爆発する前の天体の位置も明らかとなり、爆発が非対称であった可能性が示唆された。そのほか、爆発で形成された放射性元素や、超新星内でのちりの形成、周囲の星間物質も観測・検出された。しかし、超新星爆発のしくみなどについては、まだ多くのなぞが残されており、超新星1987Aも重要な研究対象の1つとなっている。

英・クイーンズ大学ベルファースト校のKarina Kjær氏らの研究チームは、ヨーロッパ南天天文台(ESO)の大型望遠鏡(VLT)に搭載された分光器「SINFONI」を使って、超新星1987Aから放出された物質の速度を観測し、超新星残骸のちりの分布を初めて立体的に再現した。

SINFONIは、混沌とした超新星の中心核を数箇所同時に観測し、各画素ごとにガスの特徴や速度に関する情報を得る。その速度を距離に変換することで、正面や側面から見た物質の分布を明らかにすることができるのである。

観測の結果、超新星1987Aでは、ある特定の方向に対して爆発がより強力で高速であったことが示された。そのため、一部分が引き伸ばされ、画像に見られるような姿になったようだ。観測データの分析などをもとに描かれた超新星1987A周辺のイラストには、外側に2つの環、内側に単独の環、さらにその中心に変形した天体が見られる。

また、SINFONIが明らかにした物質の速度は驚くべきもので、一番最初に放出された物質は時速約1億kmもあったという。これは、光速の10分の1、旅客機の速度の約10万倍である。これほどの高速であっても、(爆発の2万年以上前から放出されて)星の周囲を取り巻いていたガスやちりでできた環に到達するまでには、10年を要した。そのほか同研究チームは、さらにその10分の1という、もっと遅い速度で移動する物質が、爆発で形成された放射性物質によって温められている様子も明らかにした。

Kjær氏は「わたしたちは、噴出物の速度分布を明らかにしました。超新星の爆発のしくみは、よくわかっていない部分が多いのですが、構造の内にある物質に痕跡が残されています。それによると、物質が全方向に向かって対称的に放出されたというよりは、飛散しやすい方向があったようです。その方向は、(爆発前の星を取り巻いていた)環の位置から推測されるものとは別でした」と話している。

物質の非対称的な放出については、最新のコンピュータ・シミュレーションによる複数のモデル計算によって予測されており、爆発の最中には広範囲が不安定な状態になることも示されていた。VLTを使ったKjær氏らの研究は、その予測を初めて観測的に確認した成果となった。