Ironwood Remote Observatory Hawaii
第4回 「もっとも難しい電気系統」

Writer: Ken Archer氏

《Ken Archerプロフィール》

米国・ハワイ州オアフ島在住。アロハ航空の機長を務めるかたわら、自宅に天文台を建設して以来、その性能向上に力を注いできた。リタイヤ後の今は、天文台の自動制御に関連したビジネスを展開している。ホームページ「Ironwood Observatory」を開設中。


前回には、IROがどのように建設されるのかを話しました。技術的な内容は、さほどおもしろいものとはいえませんが、どのように作業が進められるのか疑問に思った方と情報を共有するために、あえて紹介しました。さすがに配線図まで紹介するわけにはいきませんでしたが、建設のプロセスを理解できたかと思います。

さて、前回は、天文台が持つべき特性のうち「輸送が可能であること」まで話ました。今回は、天文台建設においてもっとも難しい電気系統について始めましょう。

ただし、この話は、他の特性とどのように関係しているのかを理解してもらえると思いますが、まずシステムについて説明しておきましょう。

  • スタンダードなデザインでの建設
  • 長い間の使用に耐えられる頑丈さ
  • 外部からの進入防止と安全性を配慮したセキュリティ
  • 輸送が可能であること
  • 温度差と負荷に耐えられる電子部品
  • システムの安全面での機能
  • セルフチェックシステム
  • (公共の電気が通っていない地域における)電源の確保とインターネット

内部の画像

まず、当初のデザインではわたしたちは、クラムシェル形の屋根の開閉に、12ボルトのモーターを採用しました。開閉には小さなバッテリーを使い、トグルスイッチを直接モーターに取り付けました。内部の写真を見るとおわかりのように、周りはすべて壁で、屋根を制御するモーター以外はなにもありません。

さて、外側部分がわたしちたちの作業場に届くと、次は屋根を制御するコンピュータのデザインに入ります。

わたしたちは、工作機械などに使われる装置の購入から始めました。使った装置というのは、“PLC”です。PLC(Programmable Logic Controller)は、数年前から使われるようになり、今でも新設の工場で使用されています。

PLCに使うのは、ラダープログラムです。使用するのは単純なロジックなので、構築が簡単で、必要に応じて変更も可能です。そのため、いろいろ学んだりしながらわたしたちが進歩するのに合わせられ、システムのテストやアップデートを行うのに便利なのです。実際、ラダープログラムにコマンドラインを追加して、そのほかの特性も追加し、PLCにさらに複数の配線を接続しました。もし、マザーボードコントローラを設計しなければならなかったら、作業はより複雑になり、コストもより多くかかったことでしょう。(参照:Consideraton for Choosing a PLC

最初のプログラムは、「開く、止まる、閉じる」といったコマンドのみで、すぐに入手が可能だったガレージや門扉に使われているリモコンを使って作業をスタートしました。それ以外の装置としては、より高い電圧と電流に対応したコンタクトスイッチと開閉サイクルの最後にモーターを止めるリミット・スイッチでした。

これらの装置を大きな合板の上にすべて載せ、それらをつないですべての装置の接続状態をテストしました。テストには、小さな12ボルトDCモーターを使いました。そして、すべての装置とテスト、デザインの段階で追加した特性も、満足のできる状態に仕上がりました。

装置を想像通りに動作させるようになるまでには、数えきれないほどの試みが必要でした。数ヶ月にわたって、作業を行いながら、さまざまなことを学びつつ、テストを繰り返し、やっと満足することができました。

さらに、防水の配電盤を購入して、その内部にすべての設備を設置しました。ほとんどの配電盤は、内部になにかを取り付けるためのしくみはありません。そこで、私の妻が使っているプラスティックのまな板を適当なサイズに切断して、装置をその上に載せて、さらにそれを配電盤の中に設置しました(この設置方法は、いざというときになかなか便利です)。

この時点で、屋根を制御するシステムができました。次は、システムとコンピュータ間の通信です。実は、わたしたちは、ロールオフ式屋根の天文台用として、ASCOMのドライバを使ったコントローラをつくり、数年間インターネット上で販売していました(ちなみに、これまで修理の依頼を受けたことは一度もありません)。

データの変換は簡単でしたが、重要なのはソフトウェアのドライバです。ACPの天文台制御プログラムとの通信のために、ASCOMを対応させなければなりませんでした。

また、わたしたちの天文台には、2つの電気系統があったので、基板を別々にすることが重要でした。屋根を制御するケーブル用のコンピュータは、2つの電気系統を分離するようにつくりました(電気系統については、今後のいずれかの回で詳しく話すことにしましょう)。

さて、わたしたちが使ったのは、消費電力の少ない車両用の12Vコンピュータです。車両用は、熱や衝撃などの過酷な環境にも耐えられるようつくられているからです。コンピュータは、モニター、キーボード、マウスなしで動かせます。ネット上から別のコンピュータによって操作して、天文台にあるコンピュータと同じように、屋根や架台、カメラ、フォカーサーなどを制御します。また、それ以外に、コンピュータシステムと天気をモニターするためのソフトを操作します。

天気監視システムは、現状では雲と雨の状況に反応して屋根を閉じますが、まもなく風や湿度、温度や気圧までを監視できる機能を追加する予定です。また内部監視用モジュールによって、設備自体の温度などもモニターできるようになります。

WeatherWatcherACPの画像

WeatherWatcherACP

新しい気象台の画像

新気象台

雲検出器とカメラの画像

雲検出器とカメラ

雲の検出器と気象システムは、WeatherWatcherACP(画像参照)と呼ばれるプログラムによって読み込まれます。このソフトは、とくににわか雨の多いハワイでは必須です。なお、IROのホームページ内では、世界各地の天気パラメータを掲載してありますので、見てください。

写真に写っているのは、新しい気象システムや雲の検出器、外に設置してあるカメラです。今後は、これらの設備が一箇所にまとまって設置される予定です。

IPリモートシステムも2つ、構成に加えました。また、ビデオカメラのサーバーは、最大4つのカメラと接続できるのですが、今使っているのは、2つです。そのうちの1つは外に、もう1つは内部にあります。これで、屋根の状態と望遠鏡の位置をライブで視覚的に確認することができます。また、遠隔操作する人は、屋根の動きや望遠鏡が回転したり、撮影を行うようすも見ることができます。

スイッチのオンとオフが必要なときには、IPパワースイッチを使います。天文台を夜間自動でスタートさせ、太陽が昇ってくると同時にオフにします。

また、天文台全体に太陽発電を採用します。太陽発電は、これまでで、もっとも大きな挑戦でした。太陽発電の関連機器の取り扱いについて、わたしたちは全く経験がなかったからです。

適切なソーラーパネルと充電器、そしてバッテリーを選ぶ作業は、一年をかけて継続して行いました。わたしたちの目指すゴールは、DCだけですべての設備を稼動させることです。ACインバータを追加するということは、お金がかかると感じましたし、インバータは、明らかに追加の資金だけでなく、より多く太陽電池を必要とするためです。

インバータの稼動効率は85パーセントです。そのため、充電とシステムの容量もより多く必要になります。そうなると、装置が機能しなくなる可能性が発生し、天文台自体の信頼性を欠くことにつながりかねません。その代わりに、できるだけ12Vで動く製品を使い、より低いDC電圧を使う必要がある時は、DCコンバータを使用しました。

わたしたちは、当初1枚のソーラーパネルと12V88Ahディープサイクルバッテリーでスタートしました。しかし、すぐにそれでは十分ではないことがわかりました。というのも、京セラの12ボルトのソーラーパネルを4枚追加したからです。充電セット2つを使うこととなりましたが、最近では、モニタリング用ソフトウェアが内蔵されるようになったので、バッテリーの状態をもとに、天文台を自動制御することができます。

次回は、IRO建設におけるテクニカルな話の最後です。そして、天文台を、研究や天体写真撮影などの目的のために、遠隔操作によってどうのように利用するのか、話したいと思います。

みなさまが澄んだ夜空に恵まれますよう、幸運をお祈りしています!Aloha from Hawaii


※Ironwood Observatory(Ken Archer氏)による、リモート天文台の建設やそのほかのサービスに関する問い合わせは、「お問い合わせフォーム」から、(営業部宛まで)ご連絡ください。

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