リュウグウでアミノ酸が生成された痕跡
【2023年4月6日 岡山大学】
地球上の生命はアミノ酸が長い鎖状に結合したタンパク質で構成されている。このアミノ酸は隕石を通じて地球にもたらされたのではないかと言われているが、隕石の起源となる小惑星が形成される前からアミノ酸が存在したのか、それとも小惑星がアミノ酸生成の場所となったかについては、議論が続いている。
小惑星探査機「はやぶさ2」が訪れたリュウグウも、アミノ酸の起源となった可能性があるタイプの小惑星だ。岡山大学惑星物質研究所のChristian Potiszilさんたちの研究チームは、リュウグウで回収された2つの粒子を分析し、含まれているアミノ酸の種類とその濃度を調べた。
小惑星リュウグウから回収された粒子A0022。(a)光学顕微鏡による外観写真、(b)電子顕微鏡による内部組織写真。前駆物質が流体と反応して形成したと考えられる炭酸塩(carbonate)や磁鉄鉱(Fe-oxide)が見られる(提供:岡山大学リリース)
その結果、1つの粒子(A0022)にはジメチルグリシン(DMG; Dimethylglycine)と呼ばれる、地球外物質としては珍しいアミノ酸が多く含まれていたのに対し、もう一方の粒子(C0008)にはDMGがほとんど含まれていなかった。逆に、別のアミノ酸であるグリシンは、A0022よりC0008に多く含まれていた。
粒子C0008とA0022に含まれるアミノ酸の濃度(提供:Potiszil et al. 2023)
DMGは人間にとって重要な栄養素でもあり、グリシンを水中でギ酸、ホルムアルデヒドと反応させて合成する方法が知られている。ホルムアルデヒドとギ酸はいずれも彗星に含まれていることから、小惑星にも存在したと予想できる。つまり、粒子A0022が置かれていた環境では、グリシンを合成してDMGを生成する反応が自然に進んだのかもしれない。
2つの粒子をさらに調べると、水の存在下で形成される炭酸塩、マグネタイト、鉄硫化物などの鉱物が含まれる量はA0022の方が多かった。炭酸塩が多いことは、かつてそれだけ二酸化炭素が多い環境だったことを示唆する。水中でDMGを合成する反応では二酸化炭素も生成されるため、これらの結果もA0022でグリシンからDMGが合成されたことを支持している。
初期太陽系の外縁で生成された小天体では、寿命の短い放射性同位体が崩壊するときの熱により、氷が溶けたと考えられる。今回の研究結果は、そうしてできた液体の水が重要な役割を果たし、太陽系初期の小惑星でアミノ酸が形成されていた可能性を示すものだ。また、小惑星の環境におけるわずかな条件の違いが、A0022とC0008のようにアミノ酸の最終的な存在量に大きな影響を与えたことも示唆される。このようなプロセスを経て得られたアミノ酸が、その後に天体衝突などを通じて地球に運ばれてきたのかもしれない。
〈参照〉
- 岡山大学:小惑星リュウグウに記録されたアミノ酸生成の痕跡~初期太陽系における水-有機物反応のスナップショット
- Nature Communications:Insights into the formation and evolution of extraterrestrial amino acids from the asteroid Ryugu 論文
〈関連リンク〉
- 「はやぶさ2」:
- 大型放射光施設 SPring-8
- 星ナビ.com 「はやぶさ2」ミッションレポート
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:リュウグウ
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