太陽1兆個分のガスを吹き飛ばした超巨大ブラックホール

【2006年11月8日 Chandra Photo AlbumHubble newscenter

「宇宙最大規模の爆発的現象を起こした」とされる超巨大ブラックホール周辺を可視光・X線・電波で撮影して、重ね合わせた画像が公開された。影響は銀河団規模におよび、吹き飛ばされたガスの質量は太陽に換算して1兆個分。想像を絶する規模のエネルギーが放出されたことをうかがわせる。


(MS0735の画像)

可視光(白・黄色)、X線(青)、電波(赤)で見た銀河団MS0735.6+7421。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, CXC, STScI, and B. McNamara (University of Waterloo))

撮影されたのはきりん座の方向26億光年の距離にある銀河団(解説参照)、MS0735.6+7421(略してMS0735)である。

NASAのハッブル宇宙望遠鏡が撮影した可視光画像(白と黄色で表示)からは、数十個の銀河が重力で寄せ集まっている様子がわかる。中心部には、特に大きな銀河が存在している。これだけなら、ごく普通の銀河団の写真に見えるかもしれない。

NASAのX線天文衛星チャンドラによる画像(青)では、5000万度近くに加熱されたガスの分布が見える。ガスは銀河団全体にわたり、銀河と銀河の間の空間を埋めている。異様なのは、大きな空洞が2つ、中心の銀河を挟んで存在することだ。もともとガスが存在していたのに、吹き飛ばされてしまったのである。空洞はどちらも直径64万光年、すなわち天の川銀河の7倍近くという規模。並大抵の現象ではないことがわかる。

アメリカ国立電波天文台(NRAO)の超大型電波干渉計VLAは、空洞の中に存在する構造(赤)をとらえている。これは、電荷を帯びた粒子が発した電波だ。可視光で大きな銀河が見えた場所には、超巨大ブラックホールが存在し、そこから2方向へ高速のジェットが吹き出しているのである。

ジェットにより吹き飛ばされたガスの質量は、太陽の1兆倍にも及ぶと見られる。そのために必要なエネルギーは、太陽がここ1億年の間に放出したエネルギー総量のさらに10兆倍という、とてつもない量だ。

そのエネルギーを生み出した超巨大ブラックホールの質量は、おそらく太陽の10億倍ほどもある。ブラックホールに物質が落下する際は、もともと持っていた回転の勢いを摩擦などでじょじょに失いながらゆっくりと落ち込む。MS0735の超巨大ブラックホールの場合、ガスのかたまりが急激に落下する過程で強力な電磁場が発生した。そして、電荷を帯びた粒子が回転軸の方向へと光速に近い速度で吹き出したのだろう、と考えられている。

銀河団

銀河群より大規模な恒星の集団を銀河団と呼ぶ。直径数千万光年の空間に数百〜数千個オーダーの銀河が集まっている。銀河系にもっとも近い銀河団は「おとめ座銀河団」で、1000個以上の銀河が集まっている。私たちの局部銀河群を含めた局部超銀河団の中心に位置し、局部銀河群は「おとめ座銀河団」方向へ引きつけられていることも観測されている。(「最新デジタル宇宙大百科」より)