Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2023年1月号掲載
宇宙の中での振る舞いの面白さ

11月8日の「皆既月食+天王星食」は、天文ファンだけでなく多くの人々が関心を寄せた。月食の起こる時刻が18時過ぎから22時前という見やすい時間だっただけでなく、なんといっても「日本で両現象が重なって起こるのは何年ぶり」という話題性が高かった。「珍しいものを目撃したい」という好奇心で見るだけでもかまわないが、今回の経験によって「宇宙は面白い」と思ってくれる人が増えたら嬉しい。

そんな「宇宙の面白さ」を幼いときから感じられそうな絵本が『そうたいせいりろん for babies』だ。シンプルなボールとネットのイラストで一般相対性理論の時空のゆがみを解説し、ブラックホールや重力波を紹介する。これまで掲載した同シリーズの絵本すべてにいえることだが、大切なのは「親子で一緒に感じながら学ぶこと」だと思う。絵を見た子どもが直感的に感じたことを、親(読み聞かせる大人)が正確な言葉で補う。その手引きは最終ページの「解説」に載っているので、この欄を活用しながらぜひ“大人が勉強”してほしい。

「多くの人々の注目を集めた」といえば、2019年4月に公開された「史上初のブラックホールの画像」がある。『暗闇のなかの光』は、この撮像に成功した国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」プロジェクトの回顧録だ。著者は同プロジェクトの中心人物でEHT科学評議会の議長を務めたドイツ人科学者と、ヨーロッパで最も売れている週刊誌の科学記事編集者の2人。まず、これまでの天文学の経過を振り返り、その上でプロジェクトへの挑戦と成功までの長く苦しい道のりを紹介。そして、最後には“神の問題”にまで思いを寄せる。電波天文学の一大記録であると同時に、ケルンに生まれた科学者の人生観も感じるサイエンスノンフィクション。

さて、冒頭でふれた「皆既月食中の天王星食が何年ぶりか」という問題だが、これを理解するにはいくつかの基礎知識が必要だ。月食の仕組み(天体の位置関係)、天王星と月の動き方(天体の運動)、時間の経過による運動のぶれや重力の変化など。天文学者ほど専門的でなくても、ある程度の「天文学リテラシー」がないと観測する“面白み”も“レア感”も違ってくる。『すべての人の天文学』は「宇宙を知りたい人(第1部)」と「宇宙を伝えたい人(第2部)」のための入門書。この本が、宇宙の面白さを知ること、そして広めることにきっと役立つだろう。

宇宙に存在する多くの天体を形作っているのはガスで、様々な天体活動現象も流体力学で理解できるという。『宇宙流体力学の基礎[改訂版]』は、宇宙流体力学という観点から統一的に宇宙をとらえる教科書。初版は2014年に発刊され、今回は次の点が改訂された。ダスト混相流の取り扱い、降着円盤、衝撃波、不安定性の拡充、銀河の構造の再編成、宇宙論がらみの流体現象の新設など。宇宙流体力学を学ぶ者、教える者、より深く宇宙を理解したいアマチュア天文家にとって、充実した内容のテキストだ。

物理定数とは、日常から宇宙までのあらゆる現象を支配する法則が数値となって現れたものである。したがって、物理定数は「人類が宇宙を読み解くためのキーワード」ともいえる。『物理の4大定数』は、サブタイトルにあるように「宇宙を支配するc、G、e、h」について説明する解説書。光速c、重力定数G、電子の電荷の大きさe、プランク定数h、この4大物理定数の発見によってどんな宇宙の謎が解けて、どんな謎が新たに出現したのかを教えてくれる。4大物理定数をたどることで、相対性理論、宇宙の構造、素粒子、量子力学が見えてくる。

天文ファンを興奮させた出来事の一つに、2017年に飛来した謎の天体「オウムアムア」がある。『オウムアムアは地球人を見たか?』は、観測史上初めて太陽系外からやってきたという「オウムアムア」について、アメリカ人天体物理学者が考察する読み物。彼が科学的検討を重ねた末にたどり着いた「異星人の宇宙船」説はかなり大胆だが、世界的ベストセラーを一読する価値はアリだろう。

(紹介:原智子)