史上初、ブラックホールの撮影に成功!
【2019年4月11日 国立天文台/イベント・ホライズン・テレスコープ】
非常に大質量で高密度の天体であるブラックホールは、その強い重力のために光も脱出することができないという性質がある。ブラックホールの存在は元々は理論的に予測されたもので、その周囲の星やガスの運動の観測、ブラックホール同士の衝突合体とみられる現象からの重力波の検出など、存在を裏付ける証拠も数多くある。しかし、実際にその姿がとらえられたことはなかった。
ブラックホールに光がある距離よりも近づくと、光はブラックホールの重力にとらえられ、ブラックホールを周回しながらやがて吸い込まれる。その距離よりも遠い位置を通過する光は進行方向が曲げられ、本来は地球に届かない光も地球に届くようになるが、光がやってこない内側の一定範囲は暗く見える。ブラックホールを観測すると、このような「ブラックホールシャドウ」がとらえられるはずだと考えられてきた。
世界13か国、200人以上の研究者からなる国際プロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(Event Horizon Telescope; EHT)」では、ブラックホールシャドウの撮影を目標として観測研究を行っている。EHTでは、地球上の6か所にある8つの電波望遠鏡を同期させ、地球の自転を利用することで、直径1万kmに相当する地球サイズの電波干渉計を構成している。これにより、人間の視力300万に相当する解像度(ハッブル宇宙望遠鏡は約1500)を達成し、超高解像度で天体を観測することができる。
2017年4月、EHTは、約5500万光年彼方にあるおとめ座方向の巨大楕円銀河M87の中心部を観測した。M87は地球からの距離が(宇宙的なスケールで)近く、その中心に存在すると想定される超大質量ブラックホールの特徴から考えると、EHTの観測に最も適している天体だ。
観測から得られたデータを画像化した結果、M87の中心に安定的に存在する構造として、光に取り囲まれた黒い丸が現れた。様々な解析と慎重な検証の結果、これが間違いなくブラックホールシャドウをとらえたものであることが確かめられた。史上初のブラックホール撮影成功であり、銀河中心に超大質量ブラックホールが存在することを示す決定的な観測証拠である。
「『スパース・モデリング』と呼ばれる新しい手法をデータ処理に取り入れ、限られたデータから信頼性の高い画像を得ることができました。4つの独立した内部チームが3つの手法でデータの画像化を行い、いずれもブラックホールシャドウが現れることを確認しました」(EHT日本チームの代表、国立天文台水沢観測所 本間希樹さん)。
「具体的な方法を変えながら、およそ5万通りもの画像化を行い、得られたブラックホールシャドウの画像の特徴が本当に信頼できるものであるかを入念に確かめました」(米・マサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所 森山小太郎さん)。
理論との比較から、ブラックホールシャドウの大きさは1000億km(太陽~海王星の約22倍)と計算されている。ブラックホールの大きさを表す指標である「事象の地平面(イベント・ホライズン)」の大きさはその約40%、400億kmだ。また、ブラックホールの質量は太陽の65億倍と見積もられた。
「観測で得られた画像は、理論的予測と驚くほどよく一致していました。これによって、ブラックホール質量推定や私たちが写し出した画像そのものの意味についても、確信を持つことができました」(東アジア天文台長 Paul Hoさん)。
天の川銀河の中心にも、太陽の約400万倍の質量を持つブラックホール「いて座A*」が存在している。こちらも同時期にEHTで観測されており、データの解析が進められているところだ。
今後EHTではネットワークを広げて解像度を向上させ、より詳しくブラックホールを観測する計画だ。銀河中心ブラックホールと中心核から噴出するジェットとの関連性などが解明されると期待される。将来的に月や宇宙空間などにも電波望遠鏡を展開できれば、いて座A*とM87の中心ブラックホール以外のブラックホールも撮影できるようになり、中心ブラックホールが銀河の進化に及ぼす影響などブラックホールと銀河の理解が飛躍的に発展するだろう。
※5月2日(木)発売の「星ナビ」6月号でも記事を掲載します。
〈参照〉
- 国立天文台:史上初、ブラックホールの撮影に成功 ― 地球サイズの電波望遠鏡で、楕円銀河M87に潜む巨大ブラックホールに迫る
- EHT:Astronomers Capture First Image of a Black Hole - An international collaboration presents paradigm-shifting observations of the gargantuan black hole at the heart of distant galaxy Messier 87
- The Astrophysical Journal Letters:論文
- First M87 Event Horizon Telescope Results I:The Shadow of the Supermassive Black Hole
- First M87 Event Horizon Telescope Results II:Array and Instrumentation
- First M87 Event Horizon Telescope Results III:Data Processing and Calibration
- First M87 Event Horizon Telescope Results IV:Imaging the Central Supermassive Black Hole
- First M87 Event Horizon Telescope Results V:Physical Origin of the Asymmetric Ring
- First M87 Event Horizon Telescope Results VI:The Shadow and Mass of the Central Black Hole
〈関連リンク〉
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