すばる望遠鏡による低温の恒星を巡る惑星探し、最初の発見

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すばる望遠鏡の近赤外線高分散分光器による赤色矮星の戦略的観測プログラムで、最初の系外惑星が見つかった。ハビタブルゾーンから出たり入ったりする楕円軌道を持つ。

【2022年8月2日 すばる望遠鏡

近年の系外惑星研究では、太陽より軽い赤色矮星と呼ばれる恒星の周りに注目が集まっている。赤色矮星は天の川銀河にある恒星のうち4分の3を占め、太陽系の近くにも数多く存在することから、地球のような生命の居住に適した惑星が赤色矮星の周囲で見つかることが期待されている。

しかし、赤色矮星は一般に表面温度が4000度以下と低温のため、放つ光の大部分が赤外線だ。可視光線では暗いため、可視光線を中心に行われてきた従来の系外惑星探査とは相性が悪い対象である。赤色矮星の中でも表面温度が3000度以下の星(晩期赤色矮星)は、液体の水が存在できる地球型惑星を探すのに向いているとされるものの、実際に惑星が見つかった星系は5個程度にとどまる。

そこで、晩期赤色矮星で惑星を見つけるべく開発されたのが、すばる望遠鏡の近赤外線高分散分光器「IRD(InfraRed Doppler)」だ(参照:「第二の地球探しの新観測装置「IRD」がファーストライト」)。IRDは惑星の重力によって中心の恒星がふらつき、星のスペクトル変化から惑星を検出する「ドップラー法」で探索を行う。赤色矮星がよく見える赤外線領域において、恒星のふらつきを、人が歩く速さ程度のレベルまで検出することができる。

2019年、IRDで晩期赤色矮星を戦略的に観測する「IRD-すばる戦略枠プログラム(IRD-SSP)」が始まった。最初の2年で、スペクトルの変化を検出しやすい条件を備えた赤色矮星を探すスクリーニング観測が行われ、現在は精選された50個程度の晩期赤色矮星が集中的に観測されている。その中から、へび座の方向にあり地球から約37光年離れた晩期赤色矮星「ロス508」に、惑星「ロス508 b」が存在することが確認された。

ロス508系の模式図
系外惑星系ロス508の模式図。薄緑で示されたドーナツ状の領域は、惑星の表面に液体の状態で水が存在できるハビタブルゾーン(HZ)を表す。惑星ロス508 bは中心の赤色矮星を楕円軌道(水色の線)で周回しており、軌道の半分以上はHZより内側(実線部分)、残りはHZの中にある(破線部分)と推定されている(提供:アストロバイオロジーセンター、以下同)

ロス508 bの質量は地球の約4倍(下限値)と見積もられており、これは地球より大きいが岩石惑星の可能性がある「スーパーアース」に分類される。公転周期は約11日で、中心星からの平均距離は太陽から地球の0.05倍(約750万km、太陽から水星の1/8)と近いが、星が暗いため、この距離でも惑星の表面に液体の水が存在しうる。ただし、ロス508 bの軌道は楕円形である可能性が高く、恒星に近いときは水が蒸発する温度になるかもしれない。

視線速度
中心星の視線速度の変化は秒速4m弱しかなく、人が走るよりも遅い程度のごく微小なふらつきをIRDがとらえたことがわかる。赤い曲線は観測値へのベストフィットで、正弦曲線からのずれは、惑星の軌道が楕円である可能性が高いことを示している

「ロス508 bは、近赤外線分光データのみを用いてスーパーアースの検出に成功した世界初の例です。IRD-SSP単独で惑星検出が可能であることが示され、可視光線では暗すぎて観測が難しいような晩期赤色矮星にまで高精度な探索が可能であるという、IRD-SSPのアドバンテージが明確に示されました」(国立天文台ハワイ観測所 原川紘季さん)。

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