次々見つかる浮遊惑星、天の川銀河に1兆個以上存在か

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恒星の周りを回らない浮遊惑星が6個見つかり、そのうち1個は地球程度の質量だった。この発見は、浮遊惑星の方が星の周りを回る惑星より多く、その総数は天の川銀河で1兆個以上もある可能性を示唆する。

【2023年7月27日 大阪大学

これまでに5000個以上の惑星が太陽系外で見つかっている。そのほぼ全てが恒星の周りを回っているが、こうした惑星が多く発見されるのは、明るい主星の光を使って間接的に検出できるからだ。

一方、恒星の周りで誕生した惑星のうちいくつかは、他の惑星によって軌道を乱され、恒星の重力を振り切って浮遊惑星(自由浮遊惑星)になると考えられる。このように主星から離れて単独で存在する浮遊惑星は、そのままでは暗すぎて観測が難しい。

しかし、浮遊惑星のように暗い天体であっても、地球から見たときに偶然遠くの恒星の前を通過すれば、惑星の周りのゆがんだ時空がレンズの役割を果たして遠い恒星からの光を増幅したり曲げたりする。このような「重力マイクロレンズ」と呼ばれる現象を利用して天体を見つける手法は、浮遊惑星の検出にも有効だ。

重力マイクロレンズを利用した浮遊惑星探索の解説動画。観測者が左、恒星が右の点線で囲まれた円内にあり、その間を浮遊惑星が通ると重力レンズ効果で恒星の光が2つの経路にわかれて観測者に届く。そのときに恒星の像が見える方向とその明るさが、実際の位置の両側に描かれている(提供:NASA’s Goddard Space Flight Center/CI Lab)

日本とニュージーランドによる共同プロジェクト「MOA(Microlensing Observations in Astrophysics, 宇宙物理マイクロレンズ観測)」では、ニュージーランドにある口径1.8mのMOA-II望遠鏡を天の川銀河の中心方向に向け、重力マイクロレンズ現象を探し続けてきた。大阪大学の住貴宏さん、越本直季さんたちの研究チームは、MOAで2006年~2014年までの9年間に観測したデータを系統的に解析して6111個の重力マイクロレンズ現象を発見し、一定の基準を満たす3535個を選び出した。

重力マイクロレンズを引き起こす天体が軽いほど、増光期間は短くなる。通常の恒星が引き起こす増光は数週間から2か月程度続くが、その期間が0.5日以下であれば惑星質量の天体である可能性が高い。研究チームが分析した重力マイクロレンズ現象の中には、増光期間が0.5日以下のものが6個あった。

その中でも、いて座方向にある「MOA-9y-5919」の増光期間は0.06日と非常に短く、レンズ天体は地球と同程度の質量しかない。地球質量の浮遊惑星が見つかるのは2例目だ。数時間という短い増光を偶然検出できる確率が非常に低いことを考慮すると、これらのような低質量の浮遊惑星はありふれた存在だと示唆される。

地球質量の浮遊惑星の想像図
地球質量の浮遊惑星の想像図(提供:NASA/GSFC)

研究チームは発見された全ての事象を統計的に解析し、浮遊惑星の存在量と質量分布を世界で初めて求めた。それによれば、恒星1個に対して推定20個程度の浮遊惑星が潜んでいることになる。恒星の周りを回る系外惑星の推定数と比べても、浮遊惑星は6倍以上多い計算だ。約2000億個の恒星が存在する天の川銀河には、1兆個以上もの浮遊惑星が存在すると見積もられる。

また、質量が地球の10倍以上ある惑星であれば、恒星の周りを回っている割合が高いが、それ以下の質量では浮遊惑星になっているものの方が多いことも示唆された。結果的に、地球質量のように軽い浮遊惑星ほど多く存在することになる。この結果は、軽い惑星ほど他の惑星との相互作用で弾き飛ばされて浮遊惑星になりやすいという予想と一致する。

今後、南アフリカのPRIME望遠鏡や、NASAが2026年に打ち上げ予定のナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡で多数の重力マイクロレンズ現象を検出し、その中から多くの浮遊惑星が見つかれば、存在量や質量分布をより正確に推定できるだろう。そのデータから、系外惑星全体の形成過程と進化、ひいては太陽系や地球の起源の解明につながる知見が得られると期待される。