地球型惑星の大気は強い紫外線に負けない

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低温度星の近くを公転する系外惑星は強いX線と紫外線を受けるため、すぐに大気を失うと考えられていた。これに対し、十分な冷却効果が働き大気を維持できるとするシミュレーション結果が発表された。

【2022年12月20日 立教大学

これまでに太陽系外で見つかった惑星は5000個を超え、岩石型惑星だと考えられる小さな惑星の発見数も増えてきた。そのなかから地球のように生命の居住に適した惑星(ハビタブル惑星)を見つけることが重要な課題となっている。

ハビタブル惑星を探す場所として、太陽より質量が小さくて暗い低温度星の周りが注目されている。理由の一つは、低温度星は太陽系近傍にも多数存在するからだ。また、低温度星は液体の水が存在しうる惑星を発見するのにも向いている。惑星は恒星の近くを回っている方が検出しやすいが、低温度星であれば惑星が近くても表面はそこまで熱くならないからだ。

だが、海が存在する条件を満たしていても、大気を維持できなければ生命に適した惑星とは言えない。そして低温度星の活動は太陽のような星と比べても活発で、X線や波長の短い紫外線(XUV)を多く放出している。XUVは長期にわたって大気を加熱し続け、高温になった大気の粒子は惑星の重力を振り切って散逸してしまうことから、低温度星の近くにある惑星は大気も温暖な環境も維持できないという見方が強かった。

低温度星の周りを回るKepler-1649 cの想像図
低温度星で見つかった系外惑星Kepler-1649 cの想像図。液体の水が存在する条件は満たしているが、大気の存在については否定的な声もある(提供:NASA/Ames Research Center/Daniel Rutter、参照:「地球とよく似たサイズと温度の系外惑星、見落としからの発見」

これに対し、立教大学の中山陽史さんたちの研究チームは、地球に似た惑星が強いXUVに晒された状況を想定し、大気への影響をシミュレーションで検討した。

従来の考えでは、XUVのエネルギーを吸収し続けた上層大気は熱くなり、やがて散逸してしまう。しかし、XUVを吸収した原子内では電子の状態が変わっているため、その状態が元に戻る際にエネルギーが光として宇宙空間に逃げ、結果として大気が冷却される「原子輝線放射冷却」という効果が存在する。この冷却過程は温度が上がるほど効率的に働くため、大気の高温下が抑えられる。

研究チームの推定では、原子輝線放射冷却によって大気散逸率は1万分の1程度となる。その場合、現在の地球の100倍以上ものXUVを受ける環境であっても、地球と同じ窒素と酸素を主体とした1気圧の大気を20億年程度維持できる。惑星の表面で生命が誕生するには十分な時間だ。

大気の散逸時間図
(左)惑星が受けるXUVの量が、現在の地球の1倍(青)、3倍(緑)、5倍(赤)だった場合の大気の高度と温度の関係。点線は原子輝線放射冷却を考慮しない従来の計算結果で、実線で示された今回の研究結果では低温に抑えられていることがわかる。(右)XUVの強度と、地球と同じ気圧の大気が散逸するまでの時間の関係(提供:立教大学リリース)

このような強いXUV環境は、形成初期の地球や低温度星周囲の系外惑星に相当する。今回の研究成果は、初期地球で温暖な環境が保持できたことを裏付けるとともに、地球以外の温暖な環境を持つハビタブル惑星の存在を示唆するものであり、さらなる理論的・観測的な展開が期待される。

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