リュウグウは生まれながらにして乾いていたか
【2021年1月7日 ブラウン大学】
小惑星リュウグウの特徴の一つとして挙げられるのは、予想外に水分が少ないことだ。探査機「はやぶさ2」の到着以前は、地球からの観測でリュウグウが暗い色の鉱物でできていることがわかっており、これは含水鉱物や有機物の存在を示していると考えられてきた。ところが、「はやぶさ2」がリュウグウ滞在中に近赤外分光計で取得した観測データを分析したところ、水分量はわずかしかなく、観測数を増やして誤差を減らすまでは水の存在を検出できなかったほどだった。
約2年前に「はやぶさ2」が撮影したリュウグウ(提供:JAXA )
リュウグウが乾燥した原因としては複数のシナリオが提唱されている。リュウグウは、がれきが寄せ集まったような構造をしており、より大きな天体が衝突で砕けたときの破片から誕生したと考えられている。この母天体自体が元々乾ききっていた可能性も、衝突と再集積の過程で脱水した可能性もありうる。
あるいは、リュウグウが形成された後で太陽に接近したことで水を失った可能性も考えられる。もしリュウグウが太陽にあぶられて乾燥したのだとすれば、内部には表面よりも水分が残っているはずだ。
会津大学の北里宏平さんたちの研究チームは、「はやぶさ2」が2019年4月に実施した人工クレーター生成実験で得られた地下鉱物のデータを用いて、表面の物質と含水量を比較した。その結果、リュウグウ内部の方がわずかに水の信号が強かったものの、大差はないことが明らかになった。リュウグウが生まれた後で蒸発した水分もあるかもしれないが、それ以前にリュウグウの母天体が乾燥していたことを示唆する結果である。
ただし、近赤外分光計の測定値は観測した粒子の大きさに左右されている可能性がある。人工クレーターで露出した内部の岩石は、砕かれて細かくなっていたかもしれず、リモートセンシングではその影響を排除することは難しい。「はやぶさ2」が持ち帰ったサンプルによる詳しい追加検証が期待される。
〈参照〉
- Brown University:Remote sensing data sheds light on when and how asteroid Ryugu lost its water
- 会津大学:小惑星探査機「はやぶさ2」の観測成果に関する論文が英国科学誌Nature Astronomyに掲載されました
- Nature Astronomy:Thermally altered subsurface material of asteroid (162173) Ryugu 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2023/09/21 リュウグウ試料から始原的な塩と有機硫黄分子群を発見
- 2023/08/29 「はやぶさ2」の旅路から得られた、惑星間塵の分布情報
- 2023/08/23 2023年8月30日 フローラがみずがめ座で衝
- 2023/07/26 「はやぶさ2」が次に目指す小惑星、イトカワと類似
- 2023/07/19 リュウグウの炭酸塩に、母天体が独特な環境で進化した形跡
- 2023/04/25 リュウグウ粒子に残る、穏やかな天体衝突の記録
- 2023/04/13 「はやぶさ2♯」探査目標の小惑星による恒星食、1地点で減光を観測
- 2023/04/06 リュウグウでアミノ酸が生成された痕跡
- 2023/03/29 小惑星リュウグウに核酸塩基とビタミンが存在、過去には水による変性も
- 2023/03/29 小惑星表面の粒子は予想外にくっつきにくい
- 2023/03/23 水蒸気で囲まれた原始星に、太陽系の水が経てきた歴史を見る
- 2023/02/27 リュウグウ試料から2万種の有機分子、固体有機物を検出
- 2023/02/27 リュウグウの始原的物質は太陽系で最初期にできたものかも
- 2023/01/31 イトカワは衝撃を吸収する大きなクッション
- 2023/01/25 リュウグウの炭酸塩は太陽系誕生の180万年後にできた
- 2023/01/06 「はやぶさ2」拡張ミッション応援!目標の小惑星による恒星食を観測
- 2022/12/26 小惑星リュウグウは彗星と同郷か
- 2022/12/26 2023年1月3日 パラスがおおいぬ座で衝
- 2022/12/23 リュウグウ粒子は微小隕石の衝突で融けていた
- 2022/12/19 地球質量の5%は太陽系外縁で生まれたリュウグウ的物質