星々の測量からわかる天の川銀河の全体像

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【2012年10月2日 国立天文台 水沢

天の川銀河内の星の測定結果から、天の川銀河の中心から太陽系までの距離や銀河の回転速度が史上最高の精度で求められた。そこから推測される天の川銀河の質量、特に暗黒物質(ダークマター)の質量が、従来の予想よりかなり大きいことも判明した。


年周視差

年周視差測定のイメージ。年周視差は遠い天体では小さく、近い天体は大きいため、視差を測れば天体までの距離がわかる。クリックで拡大(提供:国立天文台、以下同)

VERAの望遠鏡の配置図

VERAの望遠鏡の配置図。岩手県から沖縄県まで4か所の望遠鏡で同時に観測することで、口径約2300kmという日本列島サイズの大きな望遠鏡と同じ性能を発揮する。クリックで拡大

天の川銀河内の天体の運動

天の川銀河を離れたところから見た想像図(右)と、精密測量が行われた52天体(赤い印)の分布(左)。クリックで拡大

天の川銀河の基本尺度

今回の解析から得られた天の川銀河の基本尺度。太陽系と天の川銀河の中心までの距離26100光年と太陽系の銀河回転速度240km/sが精密に得られた。この距離と速度から、太陽系は天の川銀河内を約2億年で1周することがわかる。クリックで拡大

わたしたちの住む天の川銀河(銀河系)はどんな大きさや重さ、形状を持つ銀河なのだろうか? 天の川銀河は大まかな分類で言えば渦巻銀河であることはわかっているが、その正確な大きさや形状、回転速度などはまだはっきりしていない。天の川銀河を外から見た姿は誰にもわからないからだ。天の川銀河の中にいる私たちがその全体像をつかむためには、銀河内のたくさんの星について個々の距離を正確に測定して「天の川銀河の地図」を作ることが必要になる。

天体の距離を仮定なしに測定するためには、地球が太陽の周りを周回することによって発生する三角視差(年周視差)がよく使われている(画像1枚目)。しかしこの年周視差は非常に小さく、これまで年周視差が計測できた領域は太陽系から1000光年以内に留まっていた。直径約10万光年の天の川銀河の中では、ごくわずかな領域だ。

国立天文台の本間希樹准教授らの研究チームは、岩手県奥州市、鹿児島県薩摩川内市、東京都小笠原村、沖縄県石垣市の4か所に設置された直径20mの電波望遠鏡からなる電波干渉計「VERA」を用いて天体までの距離を精密に計測し、天の川銀河の3次元立体構造を研究している。

今回の研究では、VERAで観測した星形成領域の19天体の観測結果、さらに米国(VLBA)とヨーロッパ(EVN)それぞれのVLBI観測データを合わせ、合計52天体の距離と運動から、天の川銀河の基本尺度である銀河中心距離(太陽系から天の川銀河の中心までの距離)と、太陽系の場所での銀河回転速度を高い精度で決定することに成功した。

今回得られた銀河中心距離は約26100±1600光年で、推奨値の約27700光年と誤差の範囲内でほぼ一致している。ただし、今回の測定はより高精度な直接測定の結果であることが重要な点だ。また、太陽系の位置における銀河回転速度は秒速240±14km、1985年以来の国際天文学連合の推奨値である秒速220kmよりも大きな値になっている。

さらに、これらの基本尺度に加えて、天の川銀河の回転速度が銀河中心距離1万〜5万光年の間でほぼ一定であることもわかった。一般に銀河の回転速度は、銀河の重力との釣り合いで決まる。そのため、銀河の回転を測ることは銀河の質量を測ることにもなる。今回得られた最新の銀河回転速度を用いて太陽系よりも内側の天の川銀河の質量を求めると、これまでの値を用いた場合に比べて約20%も大きい。すなわち、この領域にある暗黒物質の量がこれまで推定されていたものより多くなることを意味している。

現在のところ暗黒物質はミクロな素粒子であるとする説が主流だ。実際、地球に降り注ぐ暗黒物質粒子を直接とらえようとする実験が素粒子実験物理学で進められている。今回の結果は、地球に降り注ぐ暗黒物質粒子の数や速さにも関わってくるもので、素粒子物理学実験にもインパクトを与えるだろう。

日米欧のVLBIの観測、さらには2013年打ち上げ予定のGAIA衛星などの観測結果も合わせると、今後10年で天の川銀河の理解がさらに飛躍的に進むと期待される。