世紀をへだてて帰ってきた、バーナード彗星が増光中

【2006年7月27日 アストロアーツ】

21世紀の彗星ファン、天体写真家に朗報が飛び込んできました。19世紀の観測天文学者が発見した177P/バーナード彗星が117年ぶりに再観測され、急激に増光しています。8月下旬には7等級になる可能性もあり、この夏の話題となりそうです。


117年の歳月、それでも予想より早かった

177P/バーナード彗星

177P/バーナード彗星。小さな集光部のまわりに大きな淡いコマが広がっている。
2006年7月26日23時46分(JST)
撮影/門田健一、撮影地/埼玉県上尾市
口径25cmF5反射+冷却CCD

2006年6月23日、リンカーン研究所の地球接近小惑星サーベイプロジェクト(LINEAR)がへびつかい座に17等級の彗星を発見し、P/2006 M3の認識符号が与えられました。その後の計算により、117年前にバーナードが発見した彗星C/1889 M1と同一であることが判明しました。C/1889 M1は、1889年6月に9〜10等級でアンドロメダ座に星雲状天体として見つかり同年8月まで観測された彗星です。公転周期は約128〜145年の間と計算されていましたが、観測期間が短いために軌道には大きな誤差が残り、120年足らずで戻ってきて観測者を驚かすことになりました。P/2006 M3=C/1889 M1には周期番号177Pが与えられ、以降177P/バーナード彗星と呼ばれています。

写真術による天体観測の先駆者

バーナード(Edward Emerson Barnard, 1857-1923)は数々の発見をなしとげたアメリカの天文学者です。その足跡は「バーナード星(固有運動ナンバー1の恒星)」や「バーナードループ(オリオン座全体を撮影すると見える、巨大な超新星残骸)」などの名前にも残されています。とりわけ、写真を使った観測天文学者の先駆けとして有名で、また世界初の写真発見を含む16個の新彗星を発見したコメットハンターでもありました。177P/バーナード彗星は彼が写真術を彗星探索に応用する前の発見でしたが、世紀をへだてて戻ってきたことは感慨深いと言えるでしょう。現代のコメットハンター・関勉氏は再発見の感激をこう語っています。

「117年の歳月を経て今、頭上に大バーナードの星が輝いています!偉大なる観測の神様として、尊敬し敬愛してきた私には、バーナード博士の魂の輝きに見えてとても嬉しく、そして興奮しました」

楽しみはまだこれから

戻ってきたバーナード彗星は、当初13等級まで明るくなると見積もられました。ところが、この予想はあっという間に覆されることになったのです。7月に入ってから急激に増光し、22日ごろには早くも8等級にまでなりました。この調子でいけば8月下旬には7等級になることも期待されます。また、位置もヘルクレス座からりゅう座で、北半球の空で宵〜深夜に見るには絶好の条件です。すでにコマも大きく広がっていますので、ぜひ観測や撮影に挑戦したいところです。


177P/バーナード彗星の位置や光度変化について

バーナード彗星の見え方を天文シミュレーションソフトウェア「ステラナビゲータVer.7」で再現することができます。ご利用の方は、ステラナビゲータを起動後、「データ更新」を行ってください。


《177P/バーナード彗星の観測データ》

※国際彗星季報(ICQ)に報告された観測より抜粋

日付(UT)等級コマのサイズ観測者
2006/07/22.99 8.512' J. J. Gonzalez, Leon, Spain
2006/07/22.85 8.7 9' T. Scarmato, Calabria, Italy
2006/07/20.89 9.1 7' M. Meyer, Frauenstein, Germany
2006/07/20.86 9.012' T. Scarmato, Calabria, Italy
2006/07/19.91 9.8 7' M. Meyer, Frauenstein, Germany
2006/07/17.9110.1 6' M. Meyer, Frauenstein, Germany
2006/07/16.9710.8 3'.5T. Scarmato, Calabria, Italy
2006/07/15.9511.3 3' L. A. Mansilla, Obs. Teide, Canary Is.
2006/07/15.5412.7 1'.8K. Yoshimoto, Yamaguchi, Japan
2006/07/07.0713.2 0'.7J. J. Gonzalez, Leon, Spain
2006/06/30.3015.2+0'.2E. Guido and G. Sostero, near Mayhill, NM

《177P/バーナード彗星の軌道要素》

計算:村岡健治氏

近日点通過(T)2006年8月28.68895日
近日点距離(q)1.1072143AU
離心率(e)0.9543979
近日点引数(ω)60.46198゚
昇交点黄経(Ω)272.06584゚(2000.0)
軌道傾斜角(i)31.21750゚
元期(Epoch)2006年9月22.0日

参照

  • IAUC 8733: COMET 177P/BARNARD(2006 July 24)

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