種族IIIの恒星

【2002 年 1 月 17 日 国立天文台天文ニュース (514)

ビッグバン後に最初に生まれた星は、水素、ヘリウム、ごくわずかのリチウムを含むだけで、それ以外の重元素をまったく含んでいないはずです。これが種族IIIの星です。シミュレーションによると、この星は太陽の100倍もの質量をもつ巨星だったそうです。

「種族IIIの恒星」は一般に使われている用語ではありません。星に二つの種族が存在することは、半世紀も前にバーデ(Baade,W.)が明らかにしています。太陽のように重元素を多量に含む星が種族Iであり、球状星団の星のように重元素の少ない星が種族IIです。種族IIの星が超新星爆発を起こしたときに生じた重元素を取り込んで、種族Iの星が生じたというのが一般的な考え方です。この考え方を過去に延長し、種族IIの星に先立って宇宙で最初に形成された星を、ここで種族IIIと呼ぶことにしたのです。

ハーバード・スミソニアン天体物理学研究所のエイベル(Abel,T.)たちは、ビッグバンの輝きが薄れて暗黒になった宇宙に、始めて星が形成されるときのシミュレーションをおこないました。一辺が40万光年の立方体の希薄なガス雲が収縮する過程の計算です。その結果は予期に反して、ガス雲は小さい星に分裂せず、太陽の50倍から300倍の質量をもつ1個の巨大星に成長したのです。これは、熱を効率的に放射する一酸化炭素やダストなどが存在しないためと説明されています。同様な結果は、別のチームのシミュレーションでも得られています。つまり、第一世代の種族IIIの星は、このような巨星だったのです。

これらの巨星は生命が短く、異常に明るい超新星となって爆発します。この初代の星の爆発の副産物がガンマ線バーストである可能性も考えられています。宇宙で非常に遠くを見ることは、非常に古い昔を見ることと同じです。大望遠鏡で宇宙の果てを見れば、そこに第一世代の種族IIIの星自体を、あるいはその星が超新星爆発を起こすのを見ることができるかもしれません。

これらの星を探すさまざまな努力が現在も続けられています。ある人は銀河系のハロー内で種族IIIの星にごく近い、太陽の1万分の1しか鉄を含んでいない星を見つけ出していますし、またある人は、銀河団エイベル2218の重力レンズによって30倍に拡大された像から、ビッグバン後10億年以内に誕生したごく若い星を検出しています。しかし、それらが確実に種族IIIの星である証拠はまだありません。しかし、2009年に打ち上げが予定されている次世代宇宙望遠鏡(Next Generation Space Telescope;NGST)なら、きっと種族IIIの星を見せてくれるとの期待もあるようです。

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