「鉛の星」発見される 寿命末期の恒星は重元素を生成

【2001年9月3日 ESO Press Release 19/01 (2001.08.22)

ベルギー、フランスの共同研究チームにより、重元素である鉛 (原子番号82) を多量に含む恒星――いわば「鉛の星」――が3つ発見された。このような恒星が見つかったのは今回がはじめて。研究チームによると、この発見は、鉄 (原子番号26) よりも大きな原子番号を持つ重元素の約半分が、寿命末期の通常の恒星の内部で生成されたとする説を裏付ける重要な証拠であるという。

核融合

宇宙の始まりであるビッグバンの直後には、宇宙には最も軽い3種類の元素――水素 (原子番号1)、ヘリウム (原子番号2)、リチウム (原子番号3)――しか存在しなかった。現在存在しているさまざまな元素のほとんどは、恒星の内部で核融合反応――原子核同士が融合してより重い元素になる反応。この際大きなエネルギーが放出され、これが恒星の輝きのエネルギー源である――により生成されたものだ。

しかし、原子番号が大きくなると、原子核どうしのクーロン斥力 (同じ電荷を持つ粒子が互いに反発する力) が大きくなるため、核融合が起こりにくくなってしまう。核融合で生成し得る元素は鉄 (原子番号26) が限界で、それより重い元素を生成するのはほとんど不可能だ。

中性子捕縛とベータマイナス崩壊

鉄より重い元素は、中性子の吸収により生成される。中性子は電荷を持たないため、クーロン斥力が働かず、周囲の原子核と衝突して吸収されやすい。中性子が過剰となった原子核は不安定となり、過剰な中性子がベータマイナス崩壊 (電子とガンマ線を放出) を起こして陽子となり、ひとつ原子番号の大きな元素となるというわけだ。

r-プロセス

上記のような重元素の生成プロセスは、大質量星が寿命を終える際の大爆発である超新星爆発の際に急激に起こる。

超新星爆発の際には、超高温のもとで原子核が通常では起こり得ない陽子崩壊――原子核が陽子とガンマ線を放出してひとつ小さな原子番号の元素となる現象で、核分裂の一種。核融合とは反対に大きなエネルギーを吸収する――を起こし、さらに放出された陽子が電子を吸収して、多量の中性子が生成される。そして、これらの中性子が原子核に吸収されることにより、重元素が一気に生成されるのである。

このプロセスは、急激 (rapid) の r をとって「r-プロセス」と呼ばれる。重元素の約半分がこの r-プロセスにより生成されたと考えられている。

s-プロセス

重元素のあとの半分は、太陽質量の0.8倍〜8倍程度の質量の恒星が進化の最終段階――AGBフェーズ (Asymptotic Giant Branch; 漸近巨星枝)――を迎えた際、その内部で生成されたと考えられている。このプロセスはゆっくりと進むため、緩やか (slow) の s をとって「s-プロセス」と呼ばれる。

恒星は、誕生からほとんどの期間は、水素原子核どうしが核融合してヘリウム原子核になる反応だけで輝いているが、やがて水素を使い果たすと、ヘリウム原子核が核融合を起こすようになる。この段階に来ると、ヘリウム原子核が融合して炭素原子核となり、さらにその炭素原子核にヘリウム原子核が融合して酸素となるというように、鉄以下の原子量のさまざまな元素が生成されていく。

ここで、s-プロセスのキーとなるのは、炭素の同位体のひとつである炭素13である。6個の陽子と7個の中性子から成る炭素13は、陽子と中性子を6個づつ持つ通常の炭素 (炭素12) と陽子 (=水素原子核) が核融合した際に生成される。つまり、この核融合の結果、原子核中に中性子より1つ陽子が多い不安定な状態となり、過剰な陽子は周囲の電子を捕縛するか、もしくは陽電子を放出 (ベータプラス崩壊) して中性子となる。この結果中性子をひとつ多く持つ炭素13が生成される。

この炭素13の原子核は、ヘリウム原子核 (陽子・中性子を各2個持つ) と融合して、酸素16 (陽子・中性子を各8個持つ) となり、この反応で中性子が1個余って放出されるのである。この中性子が、別の原子核に吸収され、やがては鉄よりも重い元素が生成されていくというわけだ。

実証のカギは鉛

上記のプロセスでは、鉛 (原子番号82) よりも重い元素も生成されるが、このプロセスで生成し得る重元素で安定なのは鉛もしくはビスマス (原子番号83; 蒼鉛ともいう) までであり、これらよりも原子量の大きな元素は原子崩壊を繰り返して最終的には鉛に戻ってしまう。したがって、重元素の中では鉛は特別に多い元素となるはずである。鉛を多量に含む恒星の発見が、この理論の実証のカギであった。

しかし、AGBフェーズにあって既に多量の鉛を生成している恒星は太陽系近辺ではごく少数と考えられるため、検出はひじょうに困難な課題であった。さらには、たとえ鉛を多量に含む恒星であっても、スペクトルの中の鉛の輝線は比較的弱いと考えられることが、検出をいっそう困難にしていた。

そこで、研究チームが観測目標として選んだのは、なんとAGBフェーズにまだ達していないいくつかのCH星であった。CH星はその名の通りCH分子の輝線が特に強い恒星なのだが、重要な特徴として、CH星はすべからく白色矮星との二連星なのである。白色矮星は、低〜中質量の恒星が、AGBフェーズのさらに後、恒星進化の最後の段階で恒星の外層部を放出し、恒星核だけが残されたものだ。そして、このとき放出された物質――多量の鉛も含む――は、現在も輝いているCH星に吸収されているはずである。

そして、研究チームはヨーロッパ南天天文台 (ESO) の南米チリ、ラシーヤ観測所の3.6メートル望遠鏡と高精度分光観測装置の力を得て、ついに「鉛の星」を3つ発見するに至ったわけである。今回発見された3つの恒星は、いずれも月と同程度もの質量の鉛を含み、これは理論的に予測される量とよく一致するということだ。

2001年8月23日発行の科学誌『Nature』に、より詳しい情報が掲載されている。

<関連ニュース>