[HST] M81銀河とM82銀河の衝突年代を特定

【2001年3月7日 STScI-PR01-08 (2001.03.07)

「おおぐま座」の頭部にある近接した2つの近傍系外銀河「M81」と「M82」。この2つの銀河は、かつて衝突したと考えられている。そして今回、Richard de Grijs氏 (ケンブリッジ大学) をリーダーとする国際研究チームが、その衝突により引き起こされた激しい星生成活動が続いている不規則銀河「M82」をハッブル宇宙望遠鏡 (HST) を用いて詳細観測し、衝突が起こった年代を突き止めることに成功した。

HSTがとらえた「M82」銀河
HSTがとらえた「M82」銀河  画像左は地上望遠鏡 (キットピーク天文台の0.9メートル望遠鏡) による全体像で、画像右が、HSTがとらえた中心部のようす。このHSTの画像は、多数の画像をモザイク合成 (隣り合う画像をつなげて広視野化) して得られたものだ。1997年9月15日、広視野/惑星カメラ2 (WF/PC2) による撮影。
Credits for Hubble image: NASA, ESA, R. de Grijs (Institute of Astronomy, Cambridge, UK)
Credits for ground-based picture: N.A. Sharp (Association of Universities for Research in Astronomy, National Optical Astronomy Observatories, National Science Foundation)

「M81」と「M82」

「M81」と「M82」  画像上が「M82」、画像下が「M81」。ともに「おおぐま座」の頭部、1200万光年の距離にある。黄色の枠は、画像1左の撮影範囲を示す。
Credit: Robert Gendler

「M82」は、「M81」との衝突以前は星生成銀河ではなかったが、「M81」との衝突により激しい星生成活動が引き起こされたと考えられる。

研究チームは、HSTを用いた観測により、100個以上の「超星団 (super star cluster)」を検出した。研究チームによると、コンパクトで明るいこの「超星団」の正体は、それぞれ10万個 (大規模なものでは100万個) ほどの若い恒星がごく狭い範囲に集中した、ひじょうに若い球状星団であり、「M81」との衝突により引き起こされた激しい星生成活動に伴って形成されたものと考えられるという。

研究チームでは、このうち比較的古い星生成領域――衝突が起こっていた当時に活発に星生成がなされていたが、今はもう星生成は沈静化している――と考えられる領域に分布しているものについて、その年齢を調べた。その結果、「M81」と「M82」の衝突はおよそ6億年前に始まり、1億年ほど続いたらしいという結論に達した。


かつての星生成領域「M82 B」の周辺
衝突当時に激しい星生成活動がなされたと考えられる領域「M82 B」の周辺  左は可視光画像 (画像1右の一部)。右は近赤外画像で、1997年9月15日、近赤外線カメラ兼多天体分光器 (NICMOS) による撮影。両画像の全体に散在する大き目の点が「超星団」。赤外線は比較的チリの雲を透過しやすいため、近赤外画像では、可視光画像には見られない「超星団」もいくつか写っている。
Credits: NASA, ESA, R. de Grijs (Institute of Astronomy, Cambridge, UK)

なお、私たちの銀河系にも、多数の球状星団が存在しているが、どれも老齢のものである。このことから、かつては、球状星団は何十億年も昔の銀河の形成初期段階でしか形成されないと考えられていた。

だが、今回の結果も示すように、HSTによる観測からは、球状星団は今なお形成されつづけているらしいことがわかってきていた。研究チームによると、この発見はHSTが天体物理学にもたらした数々の貢献の中でも、最大のもののひとつとみなせるということだ。