小惑星衝突報道の詳細

【2000年11月9日 国立天文台ニュース(392)

小惑星が2030年に地球に衝突するかもしれない。 そんな衝撃的なニュースが11月4日に流れ、2日後に取り消されるという事件がありました。 新聞などでご覧になった方も多いことでしょう。 これについて、やや詳しい事情をお知らせします。

この天体は、9月29日にハワイ、マウナケア山頂にある口径3.6メートル、カナダ-フランス-ハワイ望遠鏡で地球接近天体の観測をしていたハワイ大学のトーレン(Tholen,D.)たちが、「かに座」のプレセペ近くに21.5等の明るさで発見したものです。 すぐに2000 SG344という認識符号がつけられました。 その軌道はほとんど地球軌道に重なるような形をしています。 さらに354日周期で太陽を回る2000 SG344は、30年後に地球に非常に接近することがわかりました。 この事実から、11月3日に国際天文学連合(IAU)とアメリカ航空宇宙局(NASA)は、「2000 SG344は、2030年9月21日に地球に衝突するかもしれない。 衝突の確率は500分の1である」という発表をしたのです。 これは世界に衝撃を与えました。

この発表の直後、アリゾナ大学のハージェンロザー(Hergenrother,C.)は、16ヶ月前の1999年5月17日に、カタリナ・スカイサーベイが2000 SG344を観測していた記録を発見しました。 この記録を加えてより精度の高い軌道を求めた結果、ジェット推進研究所のヨーマンス(Yeomans,D.)は「2030年の衝突の可能性はまったくなくなった。 もっとも近付いたときでも月の11倍の距離がある」との声明をおこない、衝突の可能性を取り消しました。 これが上記の発表の事情です。 さらに41年後の2071年9月16日の接近でも衝突の議論がなされていますが、現在の軌道精度で2071年を考えるのは時期尚早でしょう。 軌道が地球軌道と非常に良く似ているところから、2000 SG344は実は小惑星ではなく、1970年前後に月着陸のために打ち上げたアポロ宇宙船のブースター・ロケットの可能性が大きいとも言われています。 もしそうだとすると15メートル程度の大きさしかなく、たとえ地球に落下しても大気中でほとんど燃え尽きるので、被害は考えられません。 小惑星だとすると直径30から70メートルくらいの大きさになります。 これが地球に衝突しますと、もっとも大きい場合には一つの都市が壊滅する程度の被害はあるかもしれませんが、地球全体の破局につながることは考えられません。 小さい場合には大気中でほとんど破砕する場合も想定され、あまり大きい被害にはならないでしょう。

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