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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

055(2009年3月〜6月)

超新星2009ds in NGC 3905

発見は続くものです。山形の板垣公一氏の2009年3月14日の新彗星(C/2009 E1)発見以後、4月末までに新星・超新星などの多くの発見報告がありました。しかし、いずれも、本物ではありませんでした。多くの報告があったあとなどは『やっぱり新天体の発見は、なかなか難しい……』と思ってしまいます。4月下旬はそんなことを考えていた時期でした。しかし、4月28日23時04分に携帯に電話があります。板垣氏からです。氏の話によると「コップ座にあるNGC 3905に16等級の超新星を発見した」とのことです。氏は、また「超新星を見つけた」ようです。「報告を送っておきます」とのことでした。その夜は、晴天の下、4月29日00時10分にオフィスに出向いてきました。氏の発見報告は23時16分に届いていました。そこには「2009年4月28日22時26分に60-cm f/5.7反射望遠鏡+CCDを使用して、20秒露光でNGC 3905を撮影した捜索画像上に16.8等の超新星状天体(PSN)を見つけました。超新星の姿は、発見後の40分間に撮影された10枚以上の画像で確認しました。もちろん、その間に移動はありません。この超新星は、約1か月前の3月17日に同銀河を捜索した画像上にはまだ出現していません。さらにそれ以前の過去の捜索画像上にも、その姿は見られません。なお、超新星は銀河核から西に12"、北に3"の位置に出現しています」と報告されていました。

氏の発見は、4月29日00時20分に中央局のダン(グリーン)に報告しました。板垣氏からは00時26分に「拝見しました。ありがとうございます」という返信があります。それから約1時間後の01時18分に上尾の門田健一氏から「先ほど帰宅してすぐ観測を始めました。しかし、低空の電線エリアで写りが悪いためしばらく撮像を続けます。現在、高度15゚ほどです」という連絡があります。この超新星は、今夜のうちに確認できそうです。すると、01時41分に「90秒露出で16フレームを撮像して、コンポジットしてみました。う〜ん。写っている気がするのですが……、確認観測としては存在を断定しづらい写りです。なお、観測時刻は4月29日01時20分です」というメイルが届きます。氏の送ってきた画像を見ました。画像では、超新星は、銀河の西に淡く見えています。そこで、01時47分に『写っていると思いますが測定は無理ですか?』というちょっと無理なお願いを送りました。門田氏からは、01時56分に「高度10゚になるまで撮像を続けて20フレームを得ました。写りがよくないフレームをコンポジットから除外して測定を試みます」という返信がありました。続けて、02時20分には「画像処理と測定で難儀中ですがなんとか報告できそうです。もうしばらくお待ちください」という連絡が届きます。どうも難航しているようです。『離角は12"ほどあるが、低空のためか、やっぱり、淡いもんなぁ……』と思いながら、氏からの報告を待つことにしました。

02時50分になって、門田氏から「お待たせしましたが、測定できました! 写りがよくないフレームを除外してみると、測定可能なコンポジット・フレームが得られました。20フレームのうち16フレームを使いました。添付画像をご覧ください(200%拡大)。以下の位置に恒星像が確認できました。機材は25-cm f/5.0反射+CCD(ノーフィルター)です。位置はGSC-ACT、光度はTycho-2(V等級)で測定しました。光度は16.6等ですが、電線にじゃまされたフレームが含まれていますので光度には誤差が見込まれます。極限等級は17.9等でした。低空のため極限等級が浅いです。でも、なんとか確認できてホッとしました」というメイルとともに確認結果が届きます。添付された画像を見ると、銀河のそばの超新星が分離されて写っていることがわかります。そこで、氏の確認結果を03時16分にダンに報告しました。

これで一安心と思っていると、ダンへの送付の1分後の03時17分に門田氏から「現在、こちらのメイル配信経路でトラブルが発生しているようで、会社経由のメイルの到着が遅延しています。今夜、急ぎの件がありましたら、プロバイダーのアドレスにメイルを送ってください。念のため、先ほどの報告が無事に届いたかどうかご一報いただけるとありがたいです」という連絡が届きます。その直後の03時21分には、板垣氏から「中野さん。拝見しました。ありがとうございます。門田さん。悪条件のなか確認観測をありがとうございます」というメイルもあります。門田氏には、04時03分に「送りましたよ」という連絡とともに03時16分のダンへの報告を送っておきました。門田氏からは、04時36分に「どうも、お手数をおかけしました。板垣さま。おめでとうございます(仮)。夜が明けてみると、低空はかすんでいましたので、どうりで写りがよくなかったわけです。会社経由のメイルはまだ流れてきません。復旧後に連絡しますので、それまで急ぎの件はプロバイダー・アドレス宛に連絡を送ってください」というメイルが届いていました。この日の朝は、08時20分にオフィスを離れ、09時05分に自宅に戻りました。昨夜からの晴天はまだ続いていました。

4月29/30日の夜は、遅くにオフィスに出向いてきました。すると、その日の朝の08時25分に板垣氏から「おはようございます。昨夜は最近にないくらい安定して晴れました。夜が明けるのが早く私もびっくりしました。従って、東の低空は捜索できませんでした。中野さん。報告したものよりさらに直近の画像(2009年4月2日)がありましたので、報告してください。よろしくお願いします」というメイルが届いていました。さらに、板垣氏からは21時09分に「PSNの今夜の観測です」というメイルとともに4月29日19時55分に行われた確認観測が届いていました。そして、22時20分には、茅ケ崎の広瀬洋治氏からも「未確認天体のページに出ていたPSN in NGC 3905を観測しましたので報告します」というメイルとともに4月29日20時51分に行われたその確認観測が報告されていました。さらに、門田氏からは「今夜の観測を報告します。透明度が低いですが、PSNは明瞭に写っています。極限等級は18.3等でした」という報告もありました。

そして、4月30日00時03分には、板垣氏の超新星発見を告げるCBET 1784が届いています。もちろん、私の怠慢のため、これら3氏の今夜の確認観測は入っていません。『申し訳ないなぁ……』と思いながらその回報を見ました。CBET 1784によると、この超新星は、発見から約半日後の4月29日12時と14時ごろに米国とフィンランドの観測者によって世界の2か所で確認され、超新星として認められたようです。この回報を見た板垣氏からは、01時20分に「今夜は透明度は悪いですが晴れてます。昨夜のPSNは、おかげさまで2009ds in NGC 3905になりました。取り急ぎお礼まで。ほんとうにありがとうございました」というお礼状も届いていました。再び、『申し訳ないなぁ……』と思いながら、板垣・広瀬・門田諸氏の確認観測をダンに送付しました。4月30日01時21分のことです。すると、01時36分に門田氏から「あっ……、CBETが発行されました! メイルが届かないので、公表からしばらく経過してウェッブ・サイトで読みました。どうもおめでとうございます。お送りいただいた発見画像は、アストロアーツのウェッブ・ニュースに掲載させていただきます。よろしくお願いいたします」というメイルが届きます。01時55分には、ダンから「悩まなくてよい。彼らの観測は、次回、スペクトル観測が報告されたとき同時に掲載する」というメイルが届きます。そこで、このメイルをお詫びかたがた、3氏に転送しておきました。02時19分のことです。03時14分には、板垣氏から今夜の捜索画像に入ってきたC/2006 W3の画像が届きます。そこには、明るく成長した彗星の姿が写っていました。そして、編集していた「新天体発見情報No.141」を報道各社に送りました。これで安心したのか、03時30分にオフィスを出て、吉野屋で食事、ついでに洗車をして、04時30分にオフィスに戻ってきました。

5月1日01時20分になって門田氏から「メイルのトラブルは、4月30日(木)午後に復旧しました。先ほど帰宅して自宅で配信を確認したところ、会社宛のメイルが滞りなく届きました。お騒がせしたことをお詫び申し上げます。板垣さんが発見されたSN 2009dsの確認作業には支障がなくてホッとしました。原因は、自宅で利用しているプロバイダのメイル・サーバに障害が発生して受発信できない状態でした。会社のサーバは正常でしたが、配信したメイルが受信されませんでした。そのためか、プロバイダーへ直接送っていただいたメイルも、タイミングによっては遅延していました。なお、メイルの受信が可能になった直後に、一気に再送信が始まって、メイル・ボックスが満杯になり、一部のメイルが届いていません。以下のメイルをお手数ですが、再送信をしていただけますか」というメイルが届きます。とにかく、これで支障なく確認作業をお願いできると安心しました。なお、2009年4月末から5月上旬にかけてはまだ何件かの発見報告が続きました。

超新星2009fu in NGC 846

2009年5月31日夜はよく晴れていました。そこで5月13日に手に入れた新しいCCDカメラをテストするために画像を撮影していました。しかし、途中で赤道儀がおかしくなり、架台のセッティングをやり直しましたが、やはりコントロールがききません。そこでしかたなくテストを中止し、6月1日03時40分にオフィスへと向かいました。梅雨空の晴天は次の夜にも続きます。

実は、2日前の5月29日に板垣氏から「天文雑誌にお願いした」というメイルが届きます。そこには「少し前のことになりますが、1996年2月21日に水戸の櫻井幸夫さんが発見したいて座新星1996(V4334 Sgr)のその後のことを記事として取り上げていただきたく、ご連絡いたしました。櫻井さんが発見した時は、新星状の天体でした。でも、その後になんと惑星状星雲に変化したというのです。このような天体現象は、今まで観測されたことはあったでしょうか? 私は、聞いたことがありません。この珍しい星のことをお調べいただいて、記事にしてくださるとうれしいのです。ESOでこの新星を撮影した画像が載っているSky & Telescopeを添付します。参考にして下さい」というお願いがありました。しかし、氏によると「何の反応もありませんでした」とのことです。

そこで、この新星について、その後の様子を知りたいために、山形、上尾、美星に観測依頼を出してありました。というのは、板垣氏のメイルにもあるとおり、この新星は、発見時にSlow Novaと呼ばれ、発見以前から増光を繰り返していました。そして、発見後の観測では、新星のまわりに惑星状星雲が形成されていることが観測されました。しかし、その後の観測がありません。そのため、今、どうなっているのかを知りたかったのです。6月1日の朝、梅雨時にもかかわらず、西の地域から晴天が訪れたようです。6月1日04時44分に美星の浅見敦夫氏からにまず画像が届きます。浅見氏と2人で1.0-m鏡による画像の新星の出現位置を精査しましたが、何の痕跡も残っていませんでした。そこで、続く、門田・板垣両氏の観測を待つことにしました。1日遅れて、晴間は、関東まで届いたようです。上尾の門田健一氏より6月2日02時36分、山形の板垣公一氏より04時25分に画像が届きます。しかし、3か所から送られてきた画像を見ましたが、発見位置には、何も写っていませんでした。『そうか、望遠鏡の性能、波長域は違うけど、もう何もないのか』と大きく成長した惑星状星雲が存在するのではないかと考えていた私には、大変残念なことでした。

さて、この日(6月1日)の夕刻は、19時55分に自宅を離れ、南淡路へと向かいました。そこのジャスコで買い物をして洲本に戻り、さらにそこでも買い物をしてオフィスに向かおうとしました。しかし、空は晴天でした。そこで21時50分に自宅に戻り、もう一度CCDカメラのテストをすることにしました。そのとき、ちょっとの時間だと思いかばんを車中に残しました。そこには携帯もありました。6月2日00時から望遠鏡のセッティングを始めました。しかし、やはり赤道儀のコントロールができません。『なんとだめな商品なんだ』と思いながら、なんとか動かそうとしましたが、どうにもなりませんでした。時間も過ぎて午前03時になっていました。

『安物を購入した罰か……』と疲れ果てて、ぼけ〜っとしていると、03時00分に電話が鳴ります。『今どき、誰が……』と思いながら受話器を取ると、山形の板垣氏からでした。氏は「これ自宅ですか」とたずねます。『そうですよ。望遠鏡をいじくっていました』。『何か見つけましたか。でも、なぜ固定電話にかけてきたの……』と応えると、「はい。超新星です。携帯は通じません」という氏の話で『いけない。携帯は車の中か……』と携帯を車中に置いてきたことを思い出しました。『では、すぐオフィスに戻ります』と話すと、氏は「急がないでいいです。もう夜が明けますから……」という会話がありました。03時20分に車に戻り携帯を見ると、板垣氏は02時35分と02時58分の2回、携帯に連絡したようでした。オフィスに出向くと、氏の報告がまだ届いていません。そこで03時39分に板垣氏に電話を入れて『まだ来ていないよ』と伝えました。氏は、すぐ送るとのことでした。

その4分後の6月2日03時43分に板垣氏の発見報告が届きます。そこには「2009年6月2日02時15分にNGC 846を撮影した15秒露光の捜索画像上に15.7等の超新星状天体を見つけました。超新星の姿は、発見後の30分間に撮影された10枚以上の画像で確認しました。もちろん、その間に移動はありません。この超新星は、約2か月前の3月17日に同銀河を捜索した画像上にはまだ出現していません。それ以前の過去の捜索画像上にもその姿は見られません。なお、超新星は、銀河核から西に36"、南に11"の位置に出現しています」と報告されていました。板垣氏からは03時55分に発見画像が送られてきました。その画像上では、超新星は、銀河核から離れた位置に明るい天体として写っていました。氏の発見は、04時00分にダンに報告しました。板垣氏からは「拝見しました。ありがとうございます。おやすみなさい」というメイルが04時04分に届きます。そのあと、04時10分には門田氏宛に櫻井氏の新星について『画像をありがとうございました。今日はよく晴れていますね。私も、板垣さんから発見の報があるまで、自宅で望遠鏡をいじくっていました。今日こそ良いのを撮るぞ……と思っていたのですが、昨夜から続いている望遠鏡のトラブル(セッティングができない)で撮れませんでした。板垣さん。門田さんは、新星の画像があるウェッブ・サイトまで教えてくれました。これで「現在は見られない」という原稿が書けます。ありがとうございました。ところで、昨夜、美星の浅見さんに頼んで、同じ位置を撮ってもらいましたが、やはりありませんでした。微光星は、どちらが多く写っているか見ていませんが、美星の画像より良いできですよ。門田さん。こうなると1.0-mはいらないと言うことですね。しかも、上尾の空で……』でというメイルを送っておきました。板垣氏から、同新星の画像が届いたのはこのメイルの15分後のことでした。そして、この日は、08時20分にオフィスを離れ自宅に戻りました。梅雨時に数日間続いた晴天もしだいに曇りがちになってきた朝でした。

その日(6月2日)には、17時55分には板垣氏より「山形の今夜の天気は怪しくなってきました。ところで、確認待ちのページにまだ載っていませんね。どうなっているのでしょうか」という連絡が届いていました。そこで、6月3日02時にこのことを確かめ、02時16分にダンにこの超新星をウェッブ・ページに出してくれるように伝えておきました。板垣氏からは「おはようございます。拝見しました。ありがとうございます。「unconfirmed」に出ています。昨日は、夕方までは快晴でしたが、夜は完全に曇ってしまいました。とうぶん晴れそうにありません」というメイルが06時26分に届きました。氏のメイルにあるとおり、この日の朝はここでも小雨が降っていました。そのため、日本全域で、当分晴間が期待できそうにない状況になってきました。

結局、このころ、特に日本では天候が優れず、この超新星の出現を確認できませんでした。しかし、板垣氏の指摘で、天文電報中央局の「未確認天体」のウェッブ・ページにこの情報が掲載されたのが功を奏しました。このあと、つくばの清田誠一郎さんが、米国ニューメキシコにある30-cm反射を遠隔操作して、6月3日20時JSTごろに、この超新星の出現を確認しました。氏の観測光度は15.7等でした。なお、板垣氏の超新星発見は、これで47個目となり、超新星発見50個の大台に近づいてきました。

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