天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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2009年3月5日発売「星ナビ」4月号に掲載

さそり座新星 Nova V1309 Scorpii

2008年9月2日夜は、ときどき小雨が降っていました。『今夜は何にもないだろう……』と思って自宅に戻り、ちょうど食事の終ったときのできごとです。9月3日00時20分に携帯に電話があります。久留米の西山浩一氏からでした。氏は「佐賀県の椛島冨士夫氏と共同で行っている新星捜索で、さそり座に新星状天体を見つけた」と話します。そこで『これからオフィスに戻りますので、送っておいてください』と答え、00時40分に急いでオフィスに戻ってきました。すると、氏からのメイルは00時43分に届いていました。そこには「中央局のウェッブ・サイト、未確認天体ページにあるPN(新星状天体)を9月2日23時10分に40-cm f/9.8反射で撮影した4枚の画像上に確認しました」と書かれてありました。この天体は「山形の板垣公一氏が9月1日23時39分に21-cm広角望遠鏡でアンドロメダ座を撮影した捜索画像上に発見した12.7等の変光星状天体」です。氏らは、この天体の確認観測を行ったようです。実は、この天体については9月2日01時50分に板垣氏から報告があり、同夜に上尾の門田健一氏が観測を試みようとしましたが、あいにく上尾は曇天で捉えられませんでした。しかしその後、板垣氏から9月2日12時46分に「この星は矮新星であった」という報告が届いていました。今夜の西山・椛島氏の観測では、この星の光度は13.2等と観測されていました。

この矮新星の報告に続いて、西山氏のメイルは「105-mm f/2.8レンズを使用して、9月2日20時にさそり座を撮影した画像上に、異常に明るくなった星がありますので報告します。これ以上明るくならなければどうでもよいのですが、もし、さらに明るくなったときのために……です」という報告から始まっていました。そして「新星状天体の光度は9.5等です。発見後、40-cm f/9.8反射+CCDカメラでこの星の存在を即座に確認しました。この星は、8月20日と21日に撮影された極限等級が12等級の捜索フレーム上には見られません。しかし、USNO-B1.0カタログでは、出現位置のすぐそば、4"以内には12.7等星と14.8等の恒星があり、この星が増光したことも考えられます」と報告されていました。氏らのこの報告は、01時54分にダン(グリーン)に『板垣氏の矮新星の確認観測』と『ひょっとすると星表に記録されている星の増光かもしれないが……』というコメントをつけて報告しました。折り返し02時16分に門田氏から「九州のお二方もがんばっていますね。USNO-B1.0にある恒星では、14.8等の恒星の方が出現位置に近いですね。未知の変光星でしょうか。こちらは、深夜に帰宅して観測を始めたら、すぐ曇ってきました。そろそろ作業を終えます」という連絡が届きます。

そこで門田氏には、02時34分に『衛星画像を見ると近畿から関東にかけては、ず〜っと雲の帯ですね。これがもう何日間も続いています。望遠鏡を自宅に運んでから、北極星が見えたことがありません。近くにある恒星の件ですが、USNO星表には固有運動が入っていません。すでに作成時(カタログ時)から数10年が経過していますので、明るい星の場合、大きいときは数10秒の移動が考えられます。そこでダンへのメイルでは、あえて、どちらの恒星が発見位置に近いという星の同定は書きませんでした』という返答を送りました。すると、03時03分に門田氏から「確かに明るい場合は移動があり得ますね。報告の赤経・赤緯からの離角は、14.8等の恒星で1".0、12.7等の恒星で3".7と、ほぼ同じ位置ですので、同定は微妙ということで了解です。なお、板垣さんからまだメイルがありませんが、トラブルでないといいのですが……」というメイルが返ってきました。この夜は、しばらくの間、板垣氏に送ったメイルが返送されてくる状態が続いていたのです。夜が明けた06時33分に板垣氏から「おはようございます。拝見しました。ありがとうございます」というメイルが届きますが、氏が受け取ったのは私からダンへの発見報告だけで、その後のメイルはやはり届いてないようでした。この朝はときどき小雨が降る中、実家に寄って、08時55分に帰宅しました。

この夜(9月3日)は『こんなに天候が悪いんじゃ、どこでも観測できない』と思い安心して、夜半前まで眠ってしまい、オフィスに出向いてきたのは9月4日00時30分になっていました。すると、九州の西山・椛島氏から「新星状天体の確認」のメイルが22時58分に届いていました。『えっ……九州は晴れているのか。日本は広い……』と思いながら氏らからのメイルを見ました。そこには「昨日の新星状天体は0.5等級ほど増光しました。9月3日21時17分の観測では、この星は9.0等に増光しています。なお、板垣さんの矮新星は22時34分に13.6等でした」と書かれてありました。さらにオフィスに到着直前の00時04分には、水戸の櫻井幸夫氏から「ご無沙汰しております。水戸の櫻井です。久しぶりに疑問天体に遭遇いたしましたので、連絡いたします。出現位置は、さそり座で、光度は9.7等、画像の撮影時刻は9月3日19時29分と19時30分。露出は各20秒です。2枚の画像に写っています。この夏は天候が悪く、直近の画像は7月30日20時44分に撮影のものしかありませんが、極限等級12等の画像にはその存在は認められません。なお、撮影機材はフジFinePixS2にNikkor180-mm f/2.8開放、変光星・小惑星・IRAS天体については確認しました。画像を添付(1゚.3×1゚.3)いたしますので、調査のほどよろしくお願いいたします」という発見報告が届いていました。氏の報告にある出現位置を確かめると、西山・椛島氏が発見した新星状天体と同じものです。そこで、この夜の西山・椛島氏による確認観測とともに櫻井氏のこの独立発見をダンに報告しました。9月4日00時56分のことでした。メイルには『天体は新星のようなので、どこかにスペクトル観測を頼んでくれ』とつけ加えました。

この報告を見た門田氏からは「今夜は晴れ間はありますが、帰宅が遅く、夕方の空は観測できませんでした。なお、海外で観測されています」という情報が送られてきます。夜が明けた06時34分には、櫻井氏から「メイルありがとうございました。今年の夏はほんとうに天気が悪く、昼間に晴れても夜になると曇りという日が続きました。久しぶりの晴れ間ということで、昨夜はみっちり撮影しました。21時に点検を開始し、23時近くになってこの星に気づきました。明るいので、例のごとくすでに他の発見者がいるのではと思っていましたが、やはり……という結果でした。いろいろとありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします」というメイルが届きます。この日は08時15分に業務を終了して、08時50分に帰宅しました。一時的に快晴になった空も、すでに曇っていました。

その夜(9月4日)オフィスに出向いてくると、この日の朝オフィスを離れたあとの10時12分にダンから一通のメイルが届いていました。そこには「誰かDSS(Digitized Sky Survey)の発見位置にこの星が見られるかどうか調べたものがいないのか。星が見られないのなら、DSSの極限等級と撮影波長がわかれば、この星がどれくらい増光したのかがわかることになる」という問い合わせが届いていました。しかし私から返信がないのを知った彼は、14時52分に到着のCBET1496でこの星を新星状天体として公表していました。そこには「新星状天体は西山・椛島氏と櫻井氏によって独立に発見された」、さらに9月2日23時37分に中国からもこの星の独立発見が報告されたこと、すでにロシア、イタリー、ブラジルなどの観測者によって確認されたことが伝えられていました。

そして同夜23時49分には、西山・椛島氏から「さらに明るくなっていますので光度を連絡します」というメイルとともに今夜の観測が届きます。氏らの9月4日20時44分に行った観測によると、この星は8.3等まで増光しているとのことでした。そのメイルには「同一発見者による新星の年間発見数の記録は、日本では3個、世界では5個ですので、今回の星が新星と認められれば世界タイ記録になります。どこかでスペクトルを撮ってもらうとありがたいです」とつけ加えられていました。よくもまぁ……そんなことを調べる暇があるものです。でも、それが発見者にとってひとつの楽しみなのかもしれません……。もちろん氏らの観測は、9月5日01時58分になってダンに報告しておきました。06時00分には、報道各社に「新天体発見情報No.128」を発行して、この発見を知らせました。すると、06時25分に櫻井氏から「新天体発見情報No.128をお送りいただきましてありがとうございました。昨年8月のこぎつね座新星以来、天候のせいで1日、2日遅れの発見が続き、無念の涙を飲んでおりました。今回もだめかなと思っていたのですが、おかげさまで独立発見が認められ感激です。ありがとうございました。心からお礼申し上げます」というメイルが届きました。『櫻井さん。良かったですね。またがんばってください』

でも、ふたたび涙を飲んだ方もいました。その夜(9月5日)の22時13分になって、津山の多胡昭彦氏から一通のメイルが届きます。そこには「さそり座の新星ですが、またも九州の方により早く発見されてしまいました。発見日時には、津山は曇天で撮影していません。しかし、9月1日20時43分に撮影の画像では、低空で条件は悪かったため画像は荒れていますが、確認できる像としては11等級より明るい星は写っていないように思います。いかがでしょうか、参考までにその画像を送ります。画像内のA星はSAO209463星です。なお、西はりま天文台で開催のシンポジウムには、9月20日〜21日の予定で参加することで、今日申し込みしました。お会いできるのを楽しみにしています」と書かれてありました。氏のメイルにあるように、最近では新星捜索はこんなにも多くの方が行われています。恐らく、報告もなしに涙を飲んでおられる方もいることでしょう。

同じ夜、22時15分には西山・椛島氏からの観測が届きます。氏らの20時34分の観測では、この星は7.1等星となり、さらに増光しているとのことでした。なお多胡氏には、この夜の業務の終了時に『西はりまでお会いできることを楽しみにしています』というメイルを送っておきました。西山・椛島氏の観測は、9月7日01時08分到着のIAUC8972で報告されました。そこには「国内で行われたスペクトル観測で、この星は正式に新星として確認された」ことが記載されていました。ということは、西山・椛島氏の年間新星発見数は、世界タイ記録に達したということになります。9月7日になって櫻井氏から「IAUC8972をお送りいただきましてありがとうございました。9月4日と5日の両日とも、日中は晴れ間があったのですが、夕方から曇ってしまい、観測ができませんでした。6日夕方になってやっと天候に恵まれ、この星と再会しました。眼視で7.4等と見積もりました。着実に光度を増しており、今後の変化が楽しみです。ご配慮いただきましてありがとうございました」というメイルも届きました。

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スカッチ周期彗星 202P/Scotti(2001 X2=2008 R2)

長い間その検出を待ち続けていた彗星のひとつに、2001年12月に発見されたスカッチ周期彗星があります。この彗星は、キットピークのスペース・ウォッチサーベイで2001年12月14日にかに座を撮影したフレーム上に、米国の月惑星研究所のスカッチが発見したものです。発見光度は19等級、発見当時、彗星には5"のコマと西に24"の尾が見られました。彗星の確認は同日にクレットで行われました。彼らのCCD全光度は18.5等でした。発見後、彗星は2002年3月18日まで約3か月の間追跡されました。我が国でも12月18日と1月11日、2月1日に久万高原(愛媛県)の中村彰正氏、12月22日に芸西(高知県)の関勉氏、2月1日にダイニックの杉江淳氏によって捉えられています。軌道計算の結果、彗星は周期が7.3年ほどの新周期彗星であることが判明しました。

その最終軌道は2002年10月30日発行のNK879に公表されています。そのとき、過去に発見されている未登録の小惑星の観測をサーチすると、ローウェル天文台で1929年11月に発見されていた13等級の小惑星1929WWがこの彗星と同定できることがわかります。実は、最初にこのことを見つけたのは、さらに1年近く前の同彗星の発見時のことです。しかし観測期間が3か月に延びたことで、同定はより確かなものとなりました。なお、1929年出現時の近日点通過は1930年1月8.7日でした。つまり、小惑星は、近日点通過1か月前に発見されたことになります。

ところで、この小惑星の1929年11月27日の発見観測は、最初、概測観測のまま出版されていました(AN271)。その後、小惑星の発見観測と6日後の12月3日に行われた第2夜目の精測観測がともに出版されました(MPC16527)。しかし、12月3日の観測のみをリンクした連結軌道から11月27日の精測観測は、約362"ほどのずれを示し、その移動が一致しません。ただ、連結軌道は、その精度が1'程度と思われる概略観測を23"以内に表現しています。従って、11月27日の精測位置には何らかの測定エラーがあることが推測され、この同定はほぼ確かなものとなります。そこで2001年当時、ローウェル天文台に発見観測の再測定を依頼しました。しかし「プレートがどこに保管されているかわからないし、すでに写真乾板を測る手段がない。面倒だよ。Syuichi……」と断られてしまいました。また、形状確認も報告されなかったため、1929年の1夜の観測を結んだこの同定は、そのときにはまだ確認できず、同定が正しいかどうかの判断は、次回の彗星の回帰(2009年2月)を待つことになりました。ただし、このことを忘れないように、2004年7月1日発行のNK1070(=YC2431)にこの連結軌道を公表しておきました。

それから4年の時が過ぎた2008年9月になって、この彗星が2008年9月5日に検出されたことが、9月6日02時30分到着のIAUC8971に公表されました。検出者は、発見同様スカッチでした。検出は1.8-m f/2.7スペースウォッチII望遠鏡で行われました。検出時、彗星には5"のコマと西に広がった0'.5の尾が見られています。この検出は、91-cm f/3.0スペースウォッチ望遠鏡で、約1か月前の8月7日に捜索、撮影されていた捜索フレーム上に確認されます。さらに、約1年前の2007年9月13日と10月8日にレモン山で行われた捜索フレーム上にも彗星の姿が確認されました。このとき、彗星の光度は21等級と報告されています。しかしこの時期(9月6/7日頃)は、父の一周忌で世俗とのつき合いに追われ、検出された彗星が、かれこれ4年以上も待ち続けたスカッチ彗星の回帰であることに気がつきませんでした。その検出に気がついたのは公表から1日後、「さそり座新星」が正式に公表されたIAUC8972が届いた9月7日02時頃のことです。

『待っていた彗星が検出された』とちょっと『ぎっく』と驚き、緊張しながら、1929年、2001年/2002年、2007年と2008年の観測を用いて、その連結軌道を計算しました。もちろんすべての出現を結ぶことができました。『やった。同定は正しかった』と安心しました。そこで、この結果を07時11分発行のOAA/CSのEMESで『これら2007年/2008年の検出は、この彗星と小惑星1929WWとの同定(NK1070(=YC2431))が正しいことを確認しました。検出位置には、2001年の出現の軌道(NK879(=MPC56802))から赤経方向に+125"、赤緯方向に+22"のずれがあり、近日点通過時刻への補正値はΔT=−0.15日、1930年と2001年出現時の連結軌道(NK1070(=YC2431))からは、それぞれ+15"と+3"のずれがあり、ΔT=−0.015日でした』というコメントをつけて発行しました。なお、当然ですが、連結軌道の方が予報の精度が良かったことになります。

この日の夜(9月7日)は20時05分に自宅を出て、南淡路のジャスコまで買い物に出かけ、最後に洲本のジャスコにも寄って、オフィスに出向いてきたのは21時55分のことでした。そして、1か月に1度の割で同好者に送っている『今月の彗星の軌道と残差』の作成を始めました。もちろん、この彗星の連結軌道をそこに加えました。そのファイル(約350-Kバイト)を送ったのが23時57分のことです。ファイル・サイズが大きいためにこのファイルを実際に見る人は少ないでしょう。しかし2人の方がその連結軌道に気づいたようです。その夜、9月8日00時50分にブライアン(マースデン)から「Yes、小惑星1929WWの11月27日の観測が、概則観測よりも精度が悪いのは残念なことだ。しかし、フラッグスタッフの誰かがそれを再測してくれるだろう。12月3日の観測とともに……」というメイルが届きます。もうひとりはドイツのマイク(メイヤー)でした。彼は03時13分に、この同定のこと、さらに「リストにあるラッセル・ワトソン彗星(1996 P2)の発見前の観測は、誰が見つけたものか。それは、MPCのどこかに公表されているのか」というメイルを送ってきます。

そこで、まずマイクに03時53分に『発見前の観測は、一夜の観測群の中から私が見つけたものだ。しかし観測者が誰であるかはわからない。ギャレット(ウィリアムズ)にたずねてみるとわかるだろう。ところで、2009年に上海にやってくるのかい』という返答を送りました。マイクからは04時18分に「わかった。ギャレットに聞いてみよう。多分、上海には行けないと思う。残念だけど……」というメイルが返ってきました。そして、同じ時刻04時18分にブライアンに『大きなファイルの中をよく注意してくれたね。観測の再測については、5年ほど前、テッド(ボーエル)に頼んだことがあるが、測定の手段がないと断られた。でも、きみが別の人に頼めば、プレートを探し、測定してくれるかもしれない……』と返答しておきました。

それから約20日が過ぎた9月下旬になって、ダンから「ローウェル天文台でプレートを探し、それを再測してくれた。公表までしばらく待ってくれ」と連絡があります。そして彼は、9月27日06時04分到着のIAUC8981でこの同定を公表してくれました。そこには「ローウェル天文台のスキッフは、発見プレートに写っているこの天体を再測定し、この同定が正しいことを確認した。1929年の二夜のプレート上に写っているこの小惑星には、尾は見られないものの、形状は弱い彗星状で、ぼやけた10"ほどのコマが見られる」ことが報告されていました。

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ジャコビニ周期彗星 205P/Giacobini(1896 R2=2008 R6)

ところで、板垣氏の21-cm広角望遠鏡による発見は、9月1日のアンドロメダ座の矮新星の発見だけではありません。2008年8月以後だけでも、おうし座の矮新星、オリオン座のV1647の再増光など、多くの特異天体を見つけていました。『そろそろ、捜索目的の新彗星が……』と考えても不思議ではない時期でした。以後、次号に続きます。

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