メガスターデイズ 〜大平貴之の天空工房〜

第3回 メガスターの価値の発見

星ナビ2005年3月号に掲載)

前回、和歌山天文館の訪問話を書いてしまったので、ここで初回の続きに戻ろう。メガスター誕生から今に至るまでの足跡だ。

僕の自作プラネタリウム4号機となる「メガスター」は、2000年12月に、表参道にあるアートギャラリー「スパイラル」で初公開された。投影星数170万個という前代未聞のスペックを持つプラネタリウムが、はじめて一般の評価にさらされたわけだ。

これは僕にとって記念すべき初の一般公開であり、同時に重要な実験でもあった。メガスターは、それまでIPSロンドン大会をはじめ、何度か専門家向けには披露されたことはあった。100万個の星を投影することによって星空の奥行き感を出し、天の川を星の集団で再現する。その意義と価値は、プラネタリウムや天文学の知識をもつ専門家からは評価を受けていた。しかしとくに天文ファンというわけではない人々に、その価値は果たして理解してもらえるだろうか? 専門家の間でも、素人には価値がわかりにくいのではという意見が多くあったのだ。そして僕自身、やってみないとわからなかった。だから、この公開はその疑問に対する答えを得る、まさに実験だったのだ。

会場のスパイラルが、いわゆる「科学館」でなく、「美術館」に分類されることも、大きなポイントだっただろう。施設が違えば客層も変わる。芸術家たちが多く訪れる場所だ。もともとサイエンス、科学のテリトリーにあったプラネタリウムを、異業種である美術館で公開する。メガスターの価値を見極めるにはこれ以上の場所はなかった。

このときの上映プログラムは、色々な意味で未熟で完成度には課題の残る点も多々あった。それでも、100万個の星空は人々を魅了した。そしてその星空の奥行き感は、そこに多く訪れた芸術家たちの心を揺さぶることになった。それは僕自身の予想を越えるものだった。天文の知識などほとんどなく、メガスターが100万個の星を投影しているということもよく知らない人が、「不思議な奥行き感を感じる」というのだ。これこそが僕の持っていた疑問への答えだった。そしてさらに、科学の視点だけでなくアートの視点からアプローチしてみる可能性もあることに気づかされたのだ。

これはまさに僕にとって大きな転換となった。アートとして見せるプラネタリウム。知性と感性の両面から人を魅了するプラネタリウムへの道。そして、それに向けた、100万個の星空の可能性。それまで誰もが、僕自身すら気づかなかった「メガスター」の新たな価値と可能性を発見することができたのだ。

エアドーム

アートギャラリー「スパイラル」での投影は、エアドームを使って行われた。観客の入退場時にはドームはしぼみ、天上からつるされる状態に。