Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2022年8月号掲載
数字と宇宙の魅力的な関係

数学の世界には、長年にわたり解決が困難な「予想」がいくつかある。有名なものに「ポアンカレ予想」があり、約100年の歳月を経て2002年に証明が発表された。そんな未解決問題の一つが「ABC予想」で、望月新一教授が2012年に証明論文を発表した。そのとき用いたのがまったく新しい「宇宙際タイヒミュラー理論」だった。文系の筆者には“理解”の足下にも及ばないが、テレビ番組では「数学の世界に宇宙Aと宇宙Bがあり、かけ算は成立するが足し算は成立しない」という状態を紹介していた。かつてポアンカレは「数学とは、異なるものを同じと見なす技術である」と言い現代数学の原理原則になっているが、「宇宙際タイヒミュラー理論」はその原則に収まらない理論だった。筆者は「ニュートン力学で理解していた物理世界に、アインシュタインの相対性理論が発表されたときと同じように、数学界にとって次元が変わるほどの衝撃では」と感じた。

前置きが長くなったが、今回は「宇宙と数学」をキーワードにした本を紹介していく。

『宇宙の秘密を解き明かす24のスゴい数式』は、数式の面白さやかっこよさを楽しく紹介しながら宇宙の仕組みを伝える、数学と宇宙の入門書。著者は筑波大学計算科学研究センターで宇宙論を研究し、ホーキング博士に師事したこともある。彼いわく、この本でやりたいことは「数式のアイドル化」である。推しメンならぬ「推し数式」を読者に見つけてもらうために、「選抜メンバー」を3グループ(宇宙の数式・素粒子の数式・光の数式)に分けて紹介する。そして、最後にとっておきの4つ(物理学と数学で重要な数式)を披露している。文系天文ファンで数式に馴染みがなくても心配無用、「数式の眺め方のポイント」など読みやすい仕掛けがほどこされているから大丈夫だ。むしろ、数式初心者ほどぜひ読んでほしい一冊といえる。科学者たちの人生とともに数式が、ドラマチックに見えてくる。

同じく、様々な定数の魅力を伝えるのが『宇宙を支配する「定数」』だ。一見複雑に見える自然のふるまいも、実はシンプルな法則でつながっている。科学者はそんな法則を見いだしたときに「美しい」と感じ、法則に現れる物理定数自体を「神秘的」と感じるという。この本では、時空などマクロな世界から素粒子などミクロな世界までの定数を紹介し、最後は「宇宙の進化と物理定数」の関係を概観する。そもそも「物理定数は本当に一定なのか」「なぜこのような値になったのか」、未知の問いに対して現在行われている試みにもふれ、物理学の通史としても読める。前書と同じく“や物理の教科書”ではなく、数式や定数という世界の“楽しみ方(味わい)”を教えてくれるガイドブック。

『神の方程式』は、理論物理学者で「ひも理論」の第一人者であるミチオ・カク氏が、「万物の理論」に迫る科学読本。万物の理論とは、自然界の4つの力(重力・電磁気力・強い力・弱い力)を1つにまとめる試みで、素粒子の性質から宇宙の誕生や消滅まで表せる理論だ。宇宙のあらゆる謎を解くことのできる究極理論で、「神の方程式」と呼ばれる。アインシュタインが完成できなかった「統一場理論」に挑戦する科学者たちの姿を紹介しながら、現代物理学の発展と成果を、平易な言葉でわかりやすく説明している。

最後は、日常生活でいちばん多くふれる数字ともいえるカレンダーについて。『知れば知るほど面白い暦の謎』は、国立天文台天文情報センター暦計算室長の著者が暦の基本や素朴な疑問について、一問一答の形でわかりやすく教えてくれる。「1年とは?」「1か月とは?」「1週間とは?」など子供と一緒に読んでも楽しく学べるものから、太陽や月の動きについて、日食・月食・潮汐についてなど高度な情報まで、暦の専門家が解説する。2012年に発刊された『暦の科学』を再編集し改題した文庫。月と太陽と地球の動きが、私たちの生活にどれほど深く関わっているかあらためて実感する。

(紹介:原智子)