Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2021年12月号掲載
宇宙に向かう多様な人々

昨年から続く新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、今年も海外旅行の難しい年だった。そんな状況の2021年、民間人を乗せた宇宙旅行が始まった。12月には、日本人として秋山豊寛さん以来の民間人2人が、ロシアの宇宙船ソユーズで国際宇宙ステーションに向かい12日間滞在する。一方、JAXAはこの秋に「宇宙飛行士の募集要項」を発表する予定で、本格的な新宇宙飛行士の採用・育成が始まる。欧州宇宙機関では、障害者が宇宙に行くParastronaut(パラストロノート)計画もあるという。いよいよ「宇宙は地球の延長線上にある」と感じる。

このように加速度的に進化する宇宙開発も、一歩ずつミッションを成し遂げてきたから現在があるのだ。『NASAアート』は宇宙開発の足取りを、写真ではなく美しいグラフィックスでたどる大型ビジュアル本。NASAは1958年の設立以来、宇宙探査の使命や可能性をアーティストによるアートで示してきた。それが国民や政治家たちに大きな説得力を与えたという。たしかに、ワクワクするような宇宙活動や各プロジェクトの宇宙船を描いたカラーイラストは、100の言葉より夢を膨らませてくれる。「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」というジュール・ヴェルヌの言葉通りだ。

さて、今回のJAXA宇宙飛行士募集は2008年以来の13年ぶりである。『宇宙飛行士選抜試験』は、前回の応募者963人から10人のファイナリストに残った著者が、当時の様子を赤裸々に綴ったドキュメント。漫画『宇宙兄弟』により試験内容はメジャーになったが、実際に人生をかけて臨んだ受験者たちの姿はとても興奮する。誰が選ばれてもおかしくない過酷な試験環境と、そのなかで育まれる同志の結束は、彼らを究極の絆で結ぶ。それゆえ、宇宙飛行士になれなかった著者の複雑な心境も実にリアルだ。自分の夢を追いかけている人も、夢を探している人も、夢を諦めた人も、「一つのことに真剣に取り組む勇気」を思い出すだろう。

そんな厳しい選抜試験に合格し、さらに厳しい訓練を重ねた宇宙飛行士は、宇宙で様々な活動を行う。その活動のなかには、アルテミス計画などの月面基地につながる構想もある。『スペース・コロニー 宇宙で暮らす方法』は第1期宇宙飛行士の一人で、現在は東京理科大学特任副学長兼スペース・コロニー研究センター長を務める向井千秋さんが、同センターの活動とスペース・コロニーの将来を紹介する本。スペース・コロニーを研究することは、人類が宇宙で活動するための環境を整える作業だが、その技術は地球環境の保全にも役立つという。「宇宙での暮らし」を模索することが、「地球での暮らし」を見つめ直すことにつながると考えながら読むといっそう興味深い。

近年のJAXAの活動で記憶に新しいのは、なんといっても「はやぶさ2」の帰還だろう。『「はやぶさ2」リュウグウからの玉手箱』は、同機の仕組みや活躍を紹介する小学生向け宇宙科学ノンフィクション。児童が理解しやすいように、同機を擬人化した冒険物語になっている。探査機の科学を教える本であると同時に、監修の津田雄一プロジェクトマネージャーは「仲間と共感し成し遂げることが貴重」とメッセージを伝えている。

「はやぶさ2」の目的は、生命を構成する有機物や水の起源を調査することである。そして、生命の存在が期待される系外惑星も多く見つかっている。『生き物がいるかもしれない 星の図鑑』は、太陽系内外の惑星について「生命・水の可能性や痕跡」という角度から紹介するミニ図鑑。新書サイズというコンパクトな装丁ながら、カラー写真やイラストを用いて生命探しの好奇心をかき立ててくれる。

(紹介:原智子)