Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2018年11月号掲載
銀河について語る、宇宙について見る

今年3月にホーキング博士が亡くなったのは、記憶に新しいところ。車いすに乗った姿も、独創的な研究もインパクトがあり、「アインシュタイン以来もっとも優秀な理論物理学者の一人」と言われた。そんな彼の死後である4月、「最終論文」が発表された。『ホーキング、最後に語る』 はJournal of High Energy Physics誌に発表されたスティーヴン・W・ホーキング氏とトマス・ハートッホ氏の共著『永久インフレーションからの滑らかな離脱?(A Smooth Exit from Eternal Inflation?)』の全訳を掲載した、日本オリジナル解説書。その内容は「宇宙は2次元ホログラム」で「多宇宙は有限」という、大胆かつ現行の多宇宙理論の常識を覆すものだった。論文だけでは理解できない私のような者には、論文翻訳を監修した白水徹也氏による解説もあるので心強い。さらに論文共著者へのインタビューや、個人的交流があった佐藤勝彦氏の「博士の業績と思い出」も紹介している。遺書ともいえる最終論文を手にすると、博士こそホログラムとして多くの研究者や我々のなかに存在し続けている気がする。

ホーキング博士同様、死後も語り継がれている著名な人物にカール・セーガンがいる。彼が監修・進行した科学番組『コスモス』は有名だが、そのリニューアル版で司会を務め、衣鉢を継ぐ者といわれているのが、ニール・ドグラース・タイソン氏だ。『忙しすぎる人のための宇宙講座』 は、彼がこれまで発表した科学エッセイから選りすぐったコンパクトな入門書。多忙な現代人に向けて、わかりやすくユーモラスに宇宙のポイントを語る。ニューヨーカーの話題にのぼり、世界で125万部売れたベストセラーの待望の邦訳。

わかりやすく宇宙を解説してくれる人たちは日本にも大勢いる。その中の一人で銀河天文学を専門にする谷口義明氏が、私たちの住む天の川をテーマにしながら銀河について説くのが『天の川が消える日』 。天の川(銀河)とは何なのか、天の川の中にある見えるものと見えないものとは、そして最後に天の川が消えゆく定めであることを教えてくれる。

もっと専門的なことを学びたい人には、谷口氏も関わる教科書『銀河I』 『銀河II』 がある。いずれも2007年に初版が出たあと、この10年間の最新情報を盛り込んだ第2版。まさに日進月歩の研究成果が詰め込まれている。

天文学の最新情報を更新しているものでは、科学ポスター「宇宙図」も見逃せない。「一家に1枚シリーズ」として2007年に初版が発行されて以来、天文学の進展にあわせて改定されてきた。ムック『宇宙図』 は、最新版である「宇宙図2018」を付録に、その内容を詳しく紹介するビジュアルテキスト。ポスターの企画・制作は、本誌コーナー「天文学とプラネタリウム」でお馴染みの天文学普及プロジェクト「天プラ」が中心になって進めた。その苦労や見どころは、本誌2018年7月号の「天文台マダムがゆく」でもインタビュー記事として紹介された。ムックには、ポスターに入りきらなかったという詳細な説明や書き下ろし図版など、ポスター制作グループが入れたかったすべてが読みやすい形で展開される。宇宙図のどの部分を解説しているか線で囲んであるので、ポスターと付き合わせながら読んでも面白い。この一冊と1枚のポスターで、現代天文学の全体像を俯瞰で見ることができる。

(紹介:原智子)