Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2018年6月号掲載
宇宙を探る思考の旅に出よう

「惑星」が定義されてから10年以上経ったいま、明確な条件が定まったことで新たな「太陽系の惑星」捜索は積極的でなくなった。それまで長い間多くの天文学者たちは、さまざまな方法で惑星を探し“発見”してきた。「惑星を探す」という作業は、“私たち人類にとっての宇宙”を拡大することであり、現在は多角的な方法で太陽系や天の川銀河よりもずっと遠くまで“宇宙を知る”ことができるようになった。

そんなかつての「惑星探し」のなかで浮かび上がった天体が、タイトルにもなっている『幻の惑星ヴァルカン』 である。ヴァルカンとはギリシア神話に登場する「鍛冶の神」の名前(の日本語読み)。19世紀の天文界は、ニュートン力学による摂動の誤差から外惑星の存在を予言するなど、惑星捜索への関心が高かった。そのなかで“存在”していたのが、水星の動きにわずかなブレを起こす惑星ヴァルカンだ。しかし、だれもそれを正しく“発見”できなかった。まさに、惑星ヴァルカンによって当時の天文家たちは、大いに揺らされていたのである。そして、最終的に“実在しない”ことを証明したのがアインシュタインだった。古い時代の人々の愚行のようにも思えるが、科学の進歩とはこうした試行錯誤の末にたどり着くもの。そんなパラダイムシフトのドラマを描いたノンフィクション。

では、「現在の最新宇宙物理学はどうなっているのか」を教えてくれるのが『宇宙へようこそ』 だ。アメリカの各大学で宇宙物理学を教える3人の教授のテキストを翻訳した解説本で、内容もページ数もボリュームたっぷり。第1部「恒星、惑星、生命」、第2部「銀河」、第3部「アインシュタインと宇宙」と、それぞれ大学講義を受けているようなぎっしり詰まった情報だ。ちなみに、タイトルの「宇宙へようこそ」は、著者のひとりであるニール・ドグラース・タイソンがラジオやテレビでよく使う言葉であり、彼の署名のようなセリフである。もうひとりの著者J・リチャード・ゴットは、孫に初めて面会したときにこのセリフを言い、そして「人は生まれると宇宙の住人になるのだ。あたりを見回して、身のまわりに好奇の念を抱くべきだろう」とまえがきにつづっている。

前書が「ちょっと難しい」という人は、女子高生になった気分でパパから関西弁で教わるのはどうだろう。『「宇宙のすべてを支配する数式」をパパに習ってみた』 は、2015年に既刊している『超ひも理論をパパに習ってみた』 に続く第2弾。前作同様、関西の某名門旧帝大で素粒子論を研究する世界的物理学者であるパパ(浪速阪教授)が1日10分ずつ1週間でわかりやすく教えてくれるシリーズ。今回は高校3年生の娘のほかに、同級生の女子高生も登場し、彼女の恋の悩みに重力で答えを出している。今回のキーワードは「宇宙を支配する数式」で、著者は実際に理系文系が入り交じる大学1年生に向けてこのテーマで講義をしている。

同じようにちょっと変わった切り口で宇宙論を紹介するのが『言ってはいけない宇宙論』 。多くの科学者たちはこれまで、新しい惑星を探したり、宇宙の真理を求めたりしてきた。しかし、何か新しい発見をすれば新しい疑問が生まれるのが天文学のようだ。それを著者は「7つのタブー」と表現し、謎に迫っている。「陽子崩壊説」「ブラック・ホール大爆発」「エヴェレットの多世界解釈」「異端の宇宙」「ダーク・マターとダーク・エネルギー」「量子重力」「人間原理」の項目を立て、現在の宇宙論を語っていく。ちなみに、「人間原理」に登場する「ゴット推理」は、『宇宙へようこそ』の著者のひとりでまえがきを記したJ・リチャード・ゴット氏の手法を扱った項目だ。

最後に紹介する『深化する一般相対論』 は、物理科学月刊誌『パリティ』に2015年4月号から2016年3月号まで連載された「一般相対論、その世紀と現在」を単行本化した解説書。連載当時は、「アインシュタインが一般相対性理論を発表して100年」という節目の年であった。そして、連載を終了した2016年2月に重力波の直接検出が発表されるというエポックメイキングな時期だった。この本は重力波の専門家が、特殊相対性理論や一般相対性理論の概念と基礎理論をわかりやすく伝えるために、あえて数式を交えながら簡潔にまとめている。

(紹介:原智子)