Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2015年4月号掲載
宇宙の歴史と探究する人々の歴史

一冊目となる「歴史を変えた100の大発見 宇宙」 は、天文学のエッセンスを時代に沿って整理したビジュアル図鑑で、「天文学の歴史は、人類そのものの歴史と同じくらい長い」という文章から始まっている。

たしかに、「太陽や星を観測し、その運行から農業など生活に役立てる暦にした」と伝わる古代遺跡が世界中にある。やがて各地で文明が発達すると人類は、自分たちが暮らす大地(地球)と、太陽や星が移動する空(宇宙)との関係について、それぞれの時代と社会にあわせた宇宙モデルを考えはじめた。

この本は、そんな古代からの宇宙観や、歴代の天文学者たちの業績、そして現在の宇宙開発について、美しい写真やイラストを使いながら100項目を挙げて解説している。第1項目の「星界へのモニュメント」(ストーンヘンジなど天体観測の誕生)から、第100項目の「新しい地球」(ケプラー望遠鏡による第2の地球探し)まで読んでいくと、幅広い天文知識を得ることはもちろん、宇宙の謎に挑んできた人類の歴史を知ることができる。そして第101項目では、「天文学の基礎」として現在わかっている最新天文学と、宇宙の終わりなど「まだ答えが見つかっていない問題」を掲載し、最後に「偉大なる天文学者たち」39人を紹介している。

「歴史を変えた100の大発見 宇宙」の原著はイギリスで発行されたもので、内容も欧米の研究がほとんどである。それに対し、日本の天文学について紹介したのが「東洋天文学史」 だ。同じサイエンス・パレット・シリーズから2013年に発行された「西洋天文学史」 の姉妹編で、両方を読むことによっていっそう理解が深まる。著者であり、「西洋天文学史」の訳も手がけた中村士氏は太陽系小天体の研究者で、江戸時代の天文学史にも詳しい。

この本は、日本に影響を与えた周辺国の天文学がその国でどんな位置づけだったのかがわかるように、2部構成をとっている。第1部で古代オリエントとギリシア、インド、中国、韓国と東南アジアの天文学を紹介してから、第2部で日本の古代から江戸時代までの天文学について解説している。

著者によると、「アジアの天文学史という文脈の中に日本天文学の歴史を位置づけることを目指した新しい試み」のためにあえて曖昧な「東洋」という言葉をタイトルに付けたという。ひとつの意味は、ヨーロッパ人がいう「オリエント」としての東洋、つまりトルコより東のユーラシア地域のこと。もうひとつは、中国語の「東洋」が指す中国より東の国、つまり日本のことである(中国語でオリエントは「東方」)。「東洋天文学史」というシンプルな6文字に、広い地域で展開した長い時代の研究史が込められている。

「星に惹かれた男たち 江戸の天文学者 間重富と伊能忠敬」 も江戸時代の天文学にまつわる書籍だが、こちらは研究に人生をささげた男たちを描いたノンフィクション。江戸時代の天文学者というと、小説や映画で話題になった渋川春海が有名だが、彼と同じように西洋天文学をもとに正確な暦を作った間重富や高橋至時、そして至時の弟子である伊能忠敬など、まだまだ魅力的な人物はたくさんいる。この時代の研究者たちは専門知識だけでなく、医学と蘭学、測量と数学(和算)など、幅広い教養を身につけていたことがわかる。さらに彼らは、自身で観測器機を作り出すテクニックとアイデアを持っていた。著者の鳴海風氏も、歴史小説家にしてシステムメーカーに勤務するエンジニアであり、その技術者としての視点が登場人物たちをリアルに引き立たせている。

次の2冊は、現代の挑戦者たちを紹介する本。「イーロン・マスクの挑戦 人類を火星に移住させる」 は、民間ロケット会社「スペースX社」の設立者で代表であるマスク氏の取り組みや素顔を紹介した特集ムック。地球と人類のために、宇宙ロケット・電気自動車・太陽光発電の3産業で革命を起こす彼は、“異端の経営者”であり「次世代のスティーブ・ジョブズ」とも呼ばれる。そんな彼の最終的な目標は、人類を火星に移住させることだという。ほんの数人が到達するのではなく、コロニーを作って暮らせるようにして、8万人を火星に送り込む計画だ。驚くべき発想だが、あのガリレオさえも当時は“異端者”だったのだから、未来はどうなるかわからない。

「天体観測所建設記」 は、80歳になる山崎正氏が24年前に自作の口径1m反射望遠鏡を備えた天体観測所を建設した奮闘記。反射鏡を磨くだけでもたくさんの時間を費やし、多くの人たちの協力を得てようやく阿武隈山地に完成させたという。これまでの感謝をボランティアに伝え、これから望遠鏡や観測所を自分で作ろうという若者の参考になることを願って著された。今も天文と世界史と財政学に関心を寄せて生活する著者の、真摯な生き方が伝わってくる。