Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2014年8月号
子どもと、子どもの心を持った大人へ

今回は、夏休みに親子で楽しめる絵本と天文グッズ、後半では、星や太陽を利用して自分の位置や時間を知ることをテーマとした本を紹介しよう。

まずは、「星ぼしの旅」 から。こちらは表紙を見れば一目瞭然、サン=テグジュペリの「星の王子さま」をモチーフにした絵本である。世界で8000万部発行されている「星の王子さま」は、読破したことのない人でもこの絵を見ればなんとなくイメージが浮かぶだろう。そこに登場する「夜になったら、星をながめておくれよ」という言葉をきっかけに、王子さまといろいろな星を旅して宇宙の勉強をしていくストーリー。

まずは、月の世界へ降り立つ。科学的な天体写真と哲学的なサン=テグジュペリの挿絵が、とけあうように調和して優しく語りかけてくる。続いて、惑星・流星・小惑星・星雲などをめぐりそれぞれの天体について学び、最後は地球に戻る。

天文書として宇宙のことをしっかり解説しながら、最後には「星ぼしをめぐるこの旅で、生きものに出会えなくても、さびしいことではありません」という「星の王子さま」らしい言葉で締めくくられる。ページのあちこちに登場する、バラやキツネ、井戸、ヘビ、バオバブの木などお馴染みの絵も印象的で、子どもだけでなく大人への贈り物にしても喜ばれそう。付録として最終ページに描かれた「すごろく」で、もう一度王子さまと「星ぼしの旅」を楽しめる。

次の2冊は、関口シュンさんの絵本「月の満ち欠けのひみつ」 「日食・月食のひみつ」 に続く、「星座のひみつ」 「月の力のひみつ」 。どちらもマンガのようなコマ割りでお話が展開していくが、ポイントになるところは絵本らしい大判の絵で描かれている。

「星座のひみつ」は四季の星図や星座絵が登場するので細かな描き込みが多いが、星座を“知識”として解説するだけでなく、夜空というキャンバスに描かれた“自由な絵”として楽しもうというところが絵本ならでは。子どもや天文初心者が星座を楽しむ、良いきっかけになるだろう。

「月の力のひみつ」は潮汐力など月が与える力を紹介しながら、さらに人間や動物・植物に及ぼす影響について絵本的なファンタジーを交えながら紹介している。

さて、子どもたちに人気が高いという「まるごとシールブック」から「宇宙シール」 が登場した!惑星や彗星など天体はもちろん、ロケットや探査機「はやぶさ」などが、美しいシールとして楽しめる。写真はNASAや国立天文台による本格的な画像で、イラストは「はやぶさ」をはじめとした探査機や宇宙望遠鏡のCGでお馴染みの池下章裕さんの作品。きれいでカッコいいシールは、手のひらサイズのプチ図鑑として見ているだけでもワクワクする。天文ファンの大人も、思わずほしくなる。

最後の2冊は、「星ナビ」7月号の記事「戦場に輝くベガ」で取り上げたような、天体を使って位置や時間を知る方法に関係するもの。「星の海を航く」 は、日本各地の星の和名や伝承を詳細にまとめた随筆本。著者の石橋正さんは幼少より天文に興味を持ち、東亞天文協会(現・東亜天文学会)で野尻抱影氏と出会う。やがて、航海士になり天文航海学を覚えると、太古から船乗りが航海で使っていた各地の星について積極的に調査した。“野尻氏最後の弟子”といわれる彼が、65年間のライフワークで調べたことを丁寧につづっている。星の呼び名のひとつひとつからそこに暮らす人たちの営みを感じると同時に、コツコツ調べて野尻氏らと交流した著者の営みも伝わってくる。巻末の「星名対照表」は、便利で資料価値が高い。

「手のひらの太陽」 は、INAXライブミュージアム(愛知県常滑市)で2014年夏に開催の同名企画展の関連書籍。展示品の日時計は太陽で時間を、六分儀は星で位置を測る道具で、各専門家が詳しく解説している。なかでも、小野行雄さんの日時計コレクションは学術資料として貴重なだけでなく、多種多様な姿と機能が心奪われるほど美しい。それぞれに関心を寄せる人は、ぜひ入手したい一冊だろう。もちろん、博物館で実物も見てほしい。