岩石惑星を飲み込んだ恒星クロノス

このエントリーをはてなブックマークに追加
地球から約350光年の距離に位置する連星の観測により、一方の星が地球質量15個分の岩石惑星を飲み込んだ痕跡が示された。

【2017年10月18日 Princeton University

ギリシャ神話に登場するティターン族の神(巨神)の一人「クロノス」は、自分の子供に殺されるという予言を受けたため、息子ポセイドンやハデス、さらにヘラなど3人の娘を生まれるたびに飲み込んだと伝えられている。

米・プリンストン大学のSemyeong Ohさんたちの研究チームは、カシオペヤ座の方向約350光年彼方に位置するHD 240430という恒星が10個以上の岩石惑星を飲み込んだらしい痕跡を見出し、先述の神話にちなんでこの星にクロノスという愛称を付けた。

今回の研究のポイントは2つある。まず1つ目は、クロノスが連星だとわかったことだ。もう一方の星HD 240429との間隔は2光年ほど離れており、連星の公転周期は約1万年とみられている。これほど離れているため本当に連星かどうかは疑わしかったのだが、星の運動の様子から連星と確認された。研究チームはHD 240429の愛称として、クロノスの兄弟の一人である「クリオス」と名付けている。どちらの星も年齢は40億歳程度で、太陽に似たG型星だ。

クロノスとクリオス
HD 240430「クロノス」とHD 240429「クリオス」(提供:DSS/NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC-Caltech))

2つ目のポイントは、クロノスにだけ、著しく珍しい元素の存在パターンが観測されたことだ。クロノスでは、マグネシウムやアルミニウム、ケイ素など岩石に含まれるような元素が異常なほど大量に存在するのに対して、酸素や炭素、窒素など揮発性元素の量が少ない。そしてクリオスでは、このような異常は見られないのである。連星の間で化学組成の違う例は他にもあるが、クロノスとクリオスほど劇的な違いはないという。

様々な説を検討した結果、Ohさんたちは、クロノスが大量の岩石惑星を飲み込んだと考えれば化学組成の特異性を説明できることを示した。計算によると、地球質量15個分の岩石惑星が必要になるという。「ガス惑星にも巨大な岩石質の核がありますから、それらを飲み込んでも同様になると考えるかもしれませんが、ガス惑星には揮発性物質も多いので結果が異なります。クロノスの特徴を説明するには、星の近くを回っていた複数の小さな岩石惑星を飲み込むことが必要なのです」(プリンストン大学 Adrian Price-Whelanさん)。

複数の岩石惑星のイラスト
クロノスが飲み込んだことが示唆された、複数の地球サイズの岩石惑星を表したイラスト(提供:NASA/JPL-Caltech/R. Hurt(SSC-Caltech))

15個もの地球サイズの惑星が存在する惑星系はまだ見つかっていないものの、惑星系「ケプラー11」には地球22個分以上に相当する6つの惑星が、「HD 219134」には少なくとも地球15個分に相当する4つの惑星が存在しているように、クロノスと同様の運命をたどりうる惑星系は見つかっている。

今回の研究は惑星の誕生と運命という観点でも興味深いが、恒星の進化という点でも重要な示唆を含んでいる。「星の化学組成は(星そのものの進化以外の要因では)誕生時から変化しないと考えられることが多いですが、今回のように少なくとも一部の場合には、大きく変えられてしまう可能性があるのです」(Price-Whelanさん)。