木星と土星の共鳴が鍵、地球型惑星と小惑星帯形成の統一シナリオ

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かつて木星と土星の公転周期が2:1の平均運動共鳴に近い配置だったと仮定することで、地球型惑星と小惑星帯の形成を初めて同時に説明できる新しいシナリオが、数値シミュレーションで見つかった。

【2023年4月3日 国立天文台天文シミュレーションプロジェクト

現在の太陽系では、内側に水星・金星・地球・火星という4つの地球型惑星があり、その外側には小惑星帯が広がっている。これらは全て、46億年前に誕生した太陽を取り巻いていた原始惑星系円盤の固体成分から形成されたと考えられている。しかし、地球型惑星と小惑星帯の両方が形成される過程を一度に再現した数値シミュレーションはこれまでなかった。

太陽系のイラスト
現在の木星と土星、そして内側に広がる小惑星帯と地球型惑星のイラスト。太陽と惑星はサイズを拡大し、小惑星も強調して描かれている(提供:加藤恒彦、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)

近畿大学のPatryk Sofia Lykawkaさんと国立天文台天文シミュレーションプロジェクトの伊藤孝士さんは、現在の地球型惑星や小惑星帯の軌道配置を統一的に説明できるシナリオを、数値シミュレーションによって見つけ出した。

鍵を握るのは木星と土星だ。現在は木星の公転周期が約12年、土星が約30年なので、木星が太陽を5周する間に土星は2周する。言い換えれば、木星と土星の軌道周期は約5:2の関係にある。Lykawkaさんたちは、これがかつて2:1に近かったと仮定した。このように天体の軌道周期が整数比の関係にある状態を「平均運動共鳴」と呼ぶが、この状態では天体の運動に不規則性が生じて、周囲の小天体にも大きな影響を与える。

研究チームは、木星や土星が誕生して原始惑星系円盤のガスが散逸した時点で、太陽から3.5au(1auは現在の地球~太陽間の距離)よりも内側に微惑星(固体成分が数kmまで成長した天体)が集まっていたと想定した。すると、木星と土星が時おり起こす不規則な運動によって微惑星の軌道がかき乱され、太陽から1.5~3.5auの微惑星が減ってしまう。こうして1.5auより内側では地球型惑星が成長し、2~3.5auの位置に残った微惑星が小惑星帯を構成した、というのが今回提唱されたシナリオだ。

今回提唱された地球型惑星と小惑星帯形成の新シナリオ
今回提唱された地球型惑星と小惑星帯形成の新シナリオ。画像クリックで拡大表示(提供:Patryk Sofia Lykawka、国立天文台)

また、このシミュレーションによれば、水が豊富な微惑星は早いうちに集積し、地球には形成後1000~2000万年のうちに水がもたらされることになる。これは、既に観測から得られている事実と一致する。この他にも月の形成時期や、異なる組成の小惑星の分布なども今回のシミュレーションで説明できる。

今後は、これまでの観測で知られている様々な太陽系の特徴についての系統的な理解が進むと期待される。さらに、今回の成果は太陽系に限定されるものではない。

「今回のシミュレーションの設定は、原始惑星系円盤のガスが散逸した後に現れるごく自然な状態から出発しています。また、木星と土星が生み出す不規則な運動の影響も、太陽系のような天体が互いに重力をおよぼしながら運動する過程では普遍的に見られるものです。ですから、同様な過程で作られる惑星系は宇宙の中で他にも多くあるはずで、系外惑星系の形成過程に関する知見がこうしたモデルから得られる可能性があります」(伊藤さん)。