地球防衛実験探査機ダート、衝突による小惑星の軌道変化に成功
将来、地球に衝突しそうな小惑星が見つかった場合、人工物をぶつけることで小惑星の軌道をそらし、地球を守るという構想がある。NASAの惑星防衛実験探査機「ダート(DART)」は、その技術を実証するための最初のミッションで、日本時間の2022年9月27日に小惑星「ディモルフォス(Dimorphos)」に時速2万km以上(相対速度で秒速約6km)で衝突した(参照:「地球防衛の実験機ダート、小惑星への衝突に成功」)。
ダートは「Double Asteroid Redirection Test(二重小惑星進路変更実験)」の略であり、より大きな小惑星ディディモス(Didymos)との二重小惑星系を構成するディモルフォスの軌道を衝突で変化させることが狙いだ。ディモルフォスがディディモスの周りを回る公転周期は元々11時間55分で、NASAはこれを73秒以上変えることができれば実験成功だとしていた。
衝突後2週間にわたって観測した結果、公転周期は11時間23分(誤差±2分)で32分も縮んでいたことがわかった。目標を25倍以上も上回る結果で、人類が初めて天体の運動を意図的に変化させようとする試みは成功した。
LICIACubeが取得した画像から作成された動画。約800kmの距離から小惑星をとらえた画像で始まり、小惑星を通過して約300km離れたところから撮影した画像で終わっている。衝突によってディモルフォスから流れ出る物質が放出される様子がはっきりと確認できる(提供:ASI/NASA)
衝突前にダートから分離したイタリア宇宙機関の小型衛星「LICIACube」は、衝突でディモルフォスから飛び散った物質を予定どおり撮影した。こうした噴出物の反動は、噴き出す空気が風船を飛ばすのと同じように、ディモルフォスの軌道変化に関わっていると考えられる。その影響を知るには、小惑星の地表の性質や強度などについて知る必要がある。
噴出した物質は遠く離れた地球でも観測されていて、地上の天文台に加えてハッブル宇宙望遠鏡やジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡も撮影している。飛び散った塵は太陽光の圧力などで飛ばされていくため、彗星のような尾が形成された。
衝突の285時間後にハッブル宇宙望遠鏡が撮影したディディモスとディモルフォス。長く伸びた尾の形状は時間とともに変化している(提供:NASA/ESA/STScI/Hubble)
2026年12月にはヨーロッパ宇宙機関の探査機「ヘラ」がディモルフォスとディディモスを訪れる予定だ。このときに衝突クレーターが詳しく観測されるとともに、ディモルフォスの正確な質量が測定されると見込まれている。
〈参照〉
- NASA:
- ESA:Webb and Hubble capture detailed views of DART impact
- ASI:Presemtate le ultime immagini di Liciacube durante la conferenza stampa NASA sugli ultimi aggiornamenot della missione DART
〈関連リンク〉
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