地球防衛の実験機ダート、小惑星への衝突に成功

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惑星防衛実験探査機「ダート」が、天体の軌道を変化させる目的で小惑星ディモルフォスに衝突した。衝突結果は分析中で、将来地球に向かってくる天体を逸らす技術の確立に使われる。

【2022年9月27日 ジョンズ・ホプキンズ大学

すでにいくつもの探査機が他の天体に衝突しているが、惑星防衛実験探査機「ダート(DART)」は天体を動かす目的でNASAが衝突させた初めての探査機だ。昨年11月に打ち上げられたダートは、約10か月後の9月27日午前8時14分ごろ(日本時間)、小惑星ディモルフォス(Dimorphos)に時速2万km以上の速度で衝突することに成功した。

ダートの想像図
「ダート」の想像図(提供:NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben

直径160mのディモルフォスは、直径780mの小惑星ディディモス((65803) Didymos)の周りを回る衛星である。こうした天体は単独の小惑星よりも衝突の影響が観測しやすいことから、ダートの標的に選ばれた。重量570kgの探査機が衝突したことにより、ディモルフォスの公転周期は約1%、時間にして10分程度短くなると見積もられている。

ダートに取り付けられた観測機器は、光学航法用カメラ「DRACO」ただ一つだけである。ダートはDRACOがとらえた画像を元に、リアルタイム自立航行システムで最後の9万kmを飛行し、2つの天体を識別して小さい方のディモルフォスへ衝突した。DRACOの画像は地球にも送られていて、最後は衝突1秒前に約6kmの距離からディモルフォスの地表を撮影している。この画像を送信中に衝突したため、地球に届いたのはその上端付近だけだった。

DRACOがとらえたディモルフォス
光学航法用カメラ「DRACO」が衝突の2分半前から1秒前までにとらえたディモルフォス(左上画像の右下はディディモス)。ディモルフォスまでの距離は左上920km、右上63km、左下12km以内、右下6km以内(提供:NASA/Johns Hopkins APL)

また、衝突の15日前に展開されたイタリア宇宙機関の小型衛星「LICIACube」もダートの衝突とそれに伴い飛び散った物質を撮影している。LICIACubeには大きなアンテナが搭載されていないため、撮影した画像は今後数週間かけて地球へ送られる予定だ。一方、地球でも数十台の望遠鏡がディモルフォスを数週間かけて観測し、軌道の変化や衝突による噴出物などを調べる。

ディモルフォスは地球から約1100万km離れていて、今後も大きく近づくことはない。しかし、太陽系には地球に接近する軌道を持ち、いつか私たちの安全を脅かすおそれのある小惑星や彗星が存在する。NASAはそうした天体に人工物を衝突させることで軌道を逸らし、地球を防衛する技術の確立を目指していて、ダートはその技術を初めて現実の天体で試す機会となった。

「世界初となるこのミッションにはとてつもない準備と正確さが必要でしたが、ダートのチームはあらゆる面で期待を上回りました。技術実証が成功して私たちは実にわくわくしていますが、ダートが切り開いた可能性はそれだけにとどまらず、いつか小惑星の進路を変えて私たちの惑星を守り、現在の地球の生命を保護するかもしれません」(米・ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所所長 Ralph Semmelさん)。

DRACOが最後の5分半に取得した画像から作成された動画。実際の10倍の速さで再生しているが、最後の6枚だけは実際にダートが画像を送信した時間間隔(提供:NASA/JHU Applied Physics Laboratory)

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