次第に加速する、M87から噴出するジェット

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楕円銀河M87の中心の超大質量ブラックホール近傍から噴出するジェットが加速する様子が、超高解像度の電波観測により明らかにされた。

【2020年3月9日 国立天文台VERA

おとめ座の方向約5500万光年の距離に位置する巨大楕円銀河M87は、銀河中心に存在する超大質量ブラックホールが史上初めて撮影されたことで有名な天体である(参照:「史上初、ブラックホールの撮影に成功!」)。この超大質量ブラックホールの近傍からは5000光年にも及ぶ長さのジェットが噴出しており、アマチュア天文家でも撮影することができる。

M87から噴出しているジェット
ハッブル宇宙望遠鏡が可視光線で撮影した、M87から噴出しているジェット(提供:NASA, ESA and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Cote (Herzberg Institute of Astrophysics) and E. Baltz (Stanford University))

台湾中央研究院天文及天文物理研究所のJongho Parkさん、国立天文台水沢VLBI観測所の秦和弘さんを中心とする東アジアの国際研究チームは、日韓合同VLBI観測網(KVN and VERA Array; KaVA)が2週間に1度の頻度でM87を観測したデータを利用して、M87ジェットの運動の様子を詳しく調べた(参照:「KaVAで活動銀河核ジェットの運動を捉えることに成功」)。

その結果、ジェットの根元の電波で明るい「電波コア」から0.5ミリ秒角(満月の見かけ直径の360万分の1)離れた場所ではジェットの見かけの速度が光速の0.3倍程度であったのに対し、20ミリ秒角離れた場所では見かけ速度が光速の2.7倍に達する「超光速運動」をしている様子がとらえられた。M87のジェットが0.5ミリ秒角から20ミリ秒角の間で加速されたことを示す結果である。

22GHz帯で観測されたM87ジェット
22GHz帯で観測されたM87ジェット。上から時系列順に並んでいる。色付けされた点が日数経過につれて右にずれること、電波コアから離れるほどずれが大きく速度が速いことがわかる(提供:リリースページより)

さらに、アメリカ国立電波天文台のVLBA(超長基線電波干渉計)による観測データも分析したところ、電波コアから200~410ミリ秒角離れた場所では、ジェットの超光速運動が光速の5.8倍にまで達していることも明らかになった。

これらの結果から、M87の超大質量ブラックホール近傍では、ジェットの収束領域付近でジェットの加速も起こっていることが示された。その加速度合いはジェットの加速機構を調べるための重要なデータとなるが、今回の結果は、磁場が強いジェットで理論的に予測されるよりも緩やかな加速を見せている。注入されるエネルギーに対するジェットの加速効率が予測よりも低い可能性や、ジェットが複数の層を持ち、それぞれが別の具合で加速している可能性などが考えられている。

今回の研究結果はM87のブラックホールが撮影された2017年よりも前の観測に基づくものだが、研究チームはブラックホール撮影と同時期にジェットの撮影も行っている。その最新データを使った詳細な分析から、ブラックホールとジェットの関係についてさらに理解が深まることが期待される。

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