超大質量ブラックホールの降着円盤とジェットの同時撮影に成功

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ブラックホールの影がとらえられたことで知られる銀河M87の中心核で、新たにこのブラックホールを取り巻く降着円盤、および噴出するジェットの根元が撮影された。

【2023年5月1日 EHT-Japan

世界中の電波望遠鏡が連動して観測を実現するイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)は、おとめ座の楕円銀河M87の中心にある超大質量ブラックホールの影(ブラックホールシャドウ)をとらえ、2019年4月に発表した。このときに得られた画像は超大質量ブラックホールに最も近い領域をとらえていて、ブラックホールが銀河の中心に実在することを示す決定的な証拠となったが、その活動の全貌をとらえたとは言えない。

M87の超大質量ブラックホールは、周囲の物質を引き寄せる過程で莫大なエネルギーを生み出し、それによってM87の中心核は明るく輝いている。生み出されたエネルギーによって引き寄せられた物質の一部は「ジェット」として高速で噴出するが、このジェットは広視野の観測で確認されている。活動銀河核の全貌をとらえる上で欠けているのが、引き寄せられた物質が超大質量ブラックホールの周りに形成する「降着円盤」の観測だ。

ブラックホールシャドウをとらえたEHTは極めて高い視力(解像度)を誇るが、シャドウの周囲に広がる降着円盤をとらえるには、EHTよりも広い視野と高い感度が必要とされる。そこで、中国科学院上海天文台のRu-Sen Luさんたちの国際研究チームは、16台の電波望遠鏡をつないだグローバルミリ波VLBI観測網(GMVA)を用いてM87の中心部の観測を行った。波長3.5mm帯の電波を観測するGMVAは、波長1.3mm帯のEHTに比べて視力は半分程度になるが、広い視野と高い感度を備えている。

グローバルミリ波VLBI観測網
グローバルミリ波VLBI観測網(GMVA)。2018年4月に行われた観測には、米国の超長基線アレイ(VLBA)のアンテナ8局に加えて、米・グリーンバンク100m望遠鏡、独・エフェルスベルク100m望遠鏡、西・IRAM30m望遠鏡、イエベス40m望遠鏡、スウェーデンのオンサラ20m望遠鏡、フィンランドのメツァホビ望遠鏡、チリのアルマ望遠鏡、グリーンランド望遠鏡の、計16台の電波望遠鏡が参加した。画像クリックで拡大表示(提供:Helge Rottmann, MPIfR)

2018年4月14日から15日にかけて行われた観測では、欧州と北米に展開するGMVAネットワークに、南米のアルマ望遠鏡と北極圏のグリーンランド望遠鏡が加わった。これによって、特に南北方向の解像度が4倍以上向上し、ブラックホール周辺がかつてない高精度でとらえられた。

得られた画像には、ブラックホールシャドウより一回り大きなリング構造と、そこから噴出するジェットの根元が写っている。「これまで、ブラックホールと遠く離れたジェットを別々の画像で見ていましたが、新たな波長帯を用いることで、ブラックホールを取り巻く詳細な構造とジェットを1枚のパノラマ写真に収めることができました」(Luさん)。

M87の中心部
波長3.5mm帯の電波でとらえられたM87の中心部。明るい中心部分がブラックホールを取り巻く降着円盤で、そこから右上方向へジェットが噴出している。最初は広範囲に噴出しているが、次第に絞り込まれている様子もとらえられている(提供:Lu et al. (2023); composition by F. Tazaki)

M87中心のリング状構造
2つの波長帯で撮影されたM87中心部の比較。(左)3.5mm帯のGMVA、(右)1.3mm帯のEHT。今回GMVAがとらえた左のリングは、降着円盤の中でも温度が高く、3.5mm帯で観測しやすいガスだと考えられる。今後観測感度が向上することで、さらに外側に広がる構造が見えてくる可能性がある(提供:Lu et al. (2023), EHT Collaboration)

今回撮影されたリング状構造の視直径は約64マイクロ秒角(0.017光年に相当)で、EHTがとらえたリング状構造の約1.5倍も大きく、厚みもある。今回の大きなリングの起源を明らかにするためにコンピューターシミュレーションで様々なシナリオを検証した結果、撮影されたのは降着円盤であると結論づけられた。

「電波望遠鏡を用いたブラックホール研究者にとって、『活動銀河核の三種の神器』の最後の1ピースである降着円盤を直接とらえることは悲願でした。研究立案から望遠鏡運用、データ解析、理論解釈に至る部分で、日本を多く含む東アジアが主要な貢献ができ誇りに思います」(台湾中央研究院天文及天体物理研究所 浅田圭一さん)。

さらに観測を継続すれば、ジェットやガスの動く様子がわかる。多波長で観測すると、ブラックホールの近くからどのようにガスが出ていくのかといった全体像も見えてくる。

「ブラックホール研究の歴史にまた新たな1ページが刻まれました。波長3.5mm帯を用いた観測は当初私たちが予想していたよりもはるかに強力で、波長1.3mm帯のEHTとともに、今後も一層観測が進むでしょう。現在私たちは水沢局でも波長3.5mm帯の受信装置の開発・搭載試験を進めています。今後は日本の電波望遠鏡も3.5mm帯国際ネットワークに加わることで、ブラックホール、降着円盤、ジェットの動画撮影にも挑戦していきたいです」(国立天文台水沢VLBI観測所 秦和弘さん)。

今回の研究成果の紹介動画「First image of a black hole expelling a powerful jet」(提供:ESO)

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