高エネルギーガンマ線を放出する、超大質量ブラックホール候補天体の大規模探査

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大学連携VLBI観測網を用いて、高エネルギーガンマ線を放出する超大質量ブラックホール候補天体の探査が行われた。845個もの電波源を観測するという、世界的に前例のない大規模な探査だ。

【2016年3月30日 国立天文台VERA

高エネルギーガンマ線天体は、2008年に打ち上げられた天文衛星「フェルミ」の高感度観測により、現在までに1900個発見されている。そのうち30%は正体が明らかになっていないが、ほとんどが遠方銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールだと考えられている。これを直接検証するためには、ガンマ線望遠鏡よりもはるかに高い空間分解能を持つVLBI(Very Long Baseline Interferometry、超長基線干渉計)観測によって天体の輝度温度(天体の明るさを温度単位に換算した物理量)を測定する必要がある。

VLBI観測では遠い場所にある複数の電波望遠鏡が協力して観測を行うが、これらの望遠鏡は他の様々な科学観測も行うため、望遠鏡の数が増えるほど時間の確保が難しくなり、たくさんの天体を観測することは困難となる。

そこで、山口大学の藤永義隆さんと新沼浩太郎さんたちの研究チームは、山口32m電波望遠鏡(国立天文台・山口大学)とつくば32m電波望遠鏡(国土地理院・筑波大学)という2つの大口径電波望遠鏡だけを使うことによって、高い空間分解能と感度を保ったまま長時間におよぶ観測を実現した。

藤永さんたちは、未同定ガンマ線源の候補となる845個の電波源に対して輝度温度の測定を行った。この数は世界的に前例のない大規模な探査だ。その結果、輝度温度が100万度を超える29の超大質量ブラックホール候補天体が検出された。さらに、赤外線天文衛星「WISE」(現・NEOWISE)のデータを用いて検出された天体の性質を調べたところ、8天体がガンマ線ブレーザー天体と呼ばれる特殊な大質量ブラックホールである可能性が示唆された。

超巨大ブラックホール候補天体(中心の青丸)
観測された超巨大ブラックホール候補天体(中心の青丸)に対するWISEによる赤外線画像の例(提供:IRSA - NASA/IPAC Infrared Science Archive)

研究チームでは今後、これらの天体に対して米国のVLBI観測網であるVLBA(Very Long Baseline Array)を用いた多波長観測を行って、より詳細な検証を行う予定だ。また、今回の成功を受けてさらなる大規模な探査計画も進めており、ガンマ線を放出する超大質量ブラックホールの性質を統計的に明らかにしたいと考えている。

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