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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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139(2016年9〜10月)

2017年3月4日発売「星ナビ」2017年4月号に掲載

144P/串田周期彗星の増光

[先月号からの続き]チリのアタカマ高原にある40cm望遠鏡で2016年7月31日と8月2日にモーリらによって、この彗星の今回の回帰での再観測が行われました。これで彗星は1994年の発見以来、第4回目の出現を記録しました。再観測時の光度は、核光度で16等級でした。

それから約1か月半が経過した9月10日になって、スペインのゴンザレス氏から01時20分に「9月9日の明け方の空、低くにこの彗星を捉えた。予報より明るく、9.2等(コマ視直径6′)まで増光している。観測は、天文薄明と強烈な黄道光の中、地平高度+16°の低空で行われた…」とこの彗星が9等級まで増光していることが報告されます。その少し前の8月下旬以降にCCD全光度が長野の大島雄二氏が8月20日に14.3等、上尾の門田健一氏が8月22日に14.2等、長野の大島雄二氏が8月31日に13.8等、東京の佐藤英貴氏が9月1日に13.9等、4日に13.3等(強く集光した60″の淡いコマ)というように、佐藤氏の観測まではHICQ 2016にある予報光度に近い明るさで観測されていました。そのため、佐藤氏の観測の後、9月上旬に増光したようです。

さらにゴンザレス氏から10月1日02時41分に届いた報告では、氏は9月29日に強い黄道光の中、地平高度+19°の位置で、この彗星の眼視全光度を8.9等(同8′)と観測しました。そこで、この彗星が明るくなっているという情報を10月1日17時20分にOAA/CSのEMESで観測者に連絡しました。ゴンザレス氏には、10月2日01時17分に観測のお礼方々、増光前に日本で行われていたCCD全光度を連絡しておきました。

氏からは、10月7日23時25分に「彗星は10月3日に8.8等(同8′)」と、まだ8等級を維持していることが報告されます。この期間、氏の観測によるとコマは8′まで大きくなり、HICQ 2016にある予報光度より約5等級ほど増光していたことになります。その後のゴンザレス氏の観測によれば、眼視全光度は11月2日に9.3等(同8′)、11月25日に10.6等(同4′)、30日に10.7等(同4′)、12月5日に10.8等(同3′)と観測しています。このように彗星は11月以後もその増光を保っていました。ただ12月にはそのコマも小さくなり、氏の眼視光度は、それまでの増光よりは1等級ほど暗くなりました。しかし依然として、HICQ 2016にある予報光度より約4等級ほど増光していました。

ゴンザレス氏の観測は12月で終了したためにその後の彗星の動向は定かではありません。そのため2017年1月には、彗星の増光がすでに終わったのかもしれません。ただ、その後の彗星のCCD全光度を門田氏が12月16日に14.6等、大島氏が12月28日に14.8等、栗原の高橋俊幸氏が12月31日に14.6等、八束の安部裕史氏が1月6日に14.5等と観測しています。これらのCCD全光度は11月より約1等級ほど暗いものですが、1月になっても彗星は大きく減光していません。なお、この彗星の標準等級はH20=8.5(初回出現時)と、周期彗星としてはもともと明るく、観測条件さえ良ければ、初回出現時や2009年出現時のとおり、8等級以上まで明るくなる可能性のある周期彗星の一つです。

ヒヤデス星団近傍を北上する 人工天体

2016年10月10日朝は、前日から降っていた雨が上がり、寒い快晴になりました。この夜は部屋の大掃除とカーペットの洗濯を行うため、02時00分に自宅に戻ってきました。まず、部屋の片づけを始めようとしていたとき、02時34分に嬬恋の小嶋正氏から「移動している何か…をとらえました。位置は次のとおりで、ヒヤデス星団の近くです。動きの遅い人工天体でしょうか。光度は11等から13等級で変光しています。135mmと200mmレンズで追跡しています」という報告とともに10月9日23時30分から10月10日01時37分までに行われた11個の観測位置が報告されます。つまり氏は、発見から約2時間の間この天体を追跡していたことになります。『がんばるなぁ……』と思いその観測を見ました。しかし、その日(10月10日)昼間になって、氏の追跡作業はこれで終わっていなかったことがわかります。12時00分に小嶋氏からさらに「移動天体の追加の観測です。お手数でありますが、調査をしていただければ幸いです。先に送りました位置の最初の2つは135mm、それ以外は200mmレンズでの観測です。添付ファイルは最後の観測の画像です。なお、捜索プログラムCCDFを使用させていただいての観測ですので、札幌の金田宏さんにも調査をお願いしました」というメイルとともに10月10日02時44分から04時46分までに行われた13個の観測が届きます。『……ということは、発見から5時間の間、追跡を続けたのか……』と思いながら送られてきた位置を見ると、その約5時間の間に天体は、大まかに10°ほど移動していました。

この日の快晴は昼になっても続いていました。15時半に自宅を離れ実家に出向いた後、オフィスに出向いてきました。そして報告された位置から天体が人工天体であるものとして、その軌道を計算しました。地心軌道はω=203°、Ω=29°、i=23°で、近地点距離がq=1.06ER、e=0.87、a=8.13ER、周期がP=32.6時間の長円軌道を動く人工天体でした。なお、ERは地球の半径を1とする単位です。そこで小嶋氏には『近地点が地表面から400km足らず、周期が32時間程度の長円の軌道を動く人工衛星でしょうか。大きさは14mくらいと推定されます』というメイルとともにこのことを連絡しました。そのあとマルナカとマックに寄って食料品を購入し、いったん自宅に戻ってきました。

その夜になって、20時38分に小嶋氏から「お忙しい中、軌道決定の対応、大変ありがとうございました。また、人工天体の報告となり、お手数をおかけしましたが、今後もよろしくお願いいたします」というメイルが届きます。さらに金田氏からは「小嶋さんが観測された人工天体の軌道を送っていただきましてありがとうございました。人工衛星の軌道が見事に計算されているのには驚きました。残差も大変小さく、人工衛星ということで間違いないようですね。小嶋さんの200mmカメラですと、1ピクセルが10″ほどですので、測定誤差は3″程度と思われます。中野さんの計算された軌道の残差とほぼ合っています。離心率は結構大きいですので、遠い所では10万kmほどとなるようですね。光度が12等級と明るいのに、MPCの人工天体のページ(http://www.minorplanetcenter.net/iau/artsats/artsats.html)に載っていないのは不思議です。…と言いますか、漏れがあるとすれば今後のチェッキングに不安を感じます」という返信がありました。

いて座新星V5855 SAGITTARII =TCP J18102829-2729590

10月中旬は秋晴れの空が続きました。18日明け方には雨が降りましたが、日中には上がり、再び秋晴れとなりました。そして、小嶋氏の人工天体の報告から10日が経過した10月20日19時13分に、山形の板垣公一氏から携帯に連絡があります。氏は「今、メイルを送りましたが、いて座に新星状天体(PN)を見つけました。センターの未確認天体確認ページ(TOCP)には書き込みましたが、ダン(グリーン)に報告してもらえませんか」という話でした。氏のメイルは19時01分に届いていました。そこには「2016年10月20日夕刻、18時11分に180mm f/4.0望遠レンズでいて座を撮影した捜索画像上に10.7等の新星状天体を発見しました。この星は、10月4日19時43分に撮影していた極限等級が13等級の捜索画像上には見られません」という報告がありました。さらにそこには、発見直後に60cm f/5.7反射望遠鏡で発見位置を撮影して、この星の出現を確認し、その画像から測定した精測位置が報告されていました。

しかし発見画像のウェッブアドレスが記載されていません。そこで19時28分にそのアドレスを送ってくれるように氏に伝えました。そのメイルが19時39分に届きます。これらをまとめて、板垣氏の発見をダンに連絡しました。19時45分のことです。板垣氏からは19時50分に「発見報告が届いたことを確認した」という連絡があります。19時53分に氏の携帯に電話を入れ『今年になって何個くらいの超新星を見つけたのか』をたずねると、氏からは「7個くらいかなぁ……」という返答がありました。『そうなんですか。超新星の発見報告サイト(TNS)を見てないものですみません。あそこ、名前かなんかで検索できるルーチンがないのですかね……』という話をしました。20時48分に香取の野口敏秀氏から「情報をありがとうございます。板垣さん。連日の発見ですね。帰宅が遅くなり、PNは残念ながら沈んでしまいました。観測できましたら報告いたします」という連絡が久しぶりに届きます。

そのあとの21時25分には、嬬恋の小嶋正氏から「10月20日18時23分にCanon EOS 6Dデジタルカメラ+135mm f/2.8レンズで撮影した捜索画像上に、板垣さんのPNが10.5等で写っているのを見つけました」という報告があります。『天候がよかったので、やっぱりやっているんだ……』と実感しました。小嶋氏の時刻は、板垣氏の発見からわずかに12分後の撮影時刻です。仮に板垣氏の報告がなければ、あるいはもう少し遅れておれば、小嶋氏にも充分に発見の可能性のあった新星と言えるでしょう。なお、小嶋氏の観測は10月21日02時21分にダンに知らせておきました。

この日(10月21日)の昼14時07分頃には、鳥取県中部で最大震度6弱の地震がありました。『どうだったのか様子を聞いてみようかなぁ……』とも思いましたが、かえって邪魔になると悪いと思い控えました。しかし翌日になっても、やはり気になって、震源地近くに住んでいる八束の安部裕史氏、佐治の織部隆明氏らに07時07分に『遅くなりましたが、地震は大丈夫でしたか。こちらのほうもけっこう揺れました。「緊急地震速報」が間に合った初めての地震でした。速報が表示されても、しばらく、約10秒くらい何にもありません。「なんだ、ミスだったのか」と思っていると、ガタガタときました。「えらい遠くの地震だ。それにしては大きかった。南海地震なのか……」と思っていると、震源は鳥取という表示がありました。その後の小さな地震もこちらで揺れを感じます。距離が遠い地震をこんなに多く感じることは、今までありませんでした。充分に注意してください』というメイルを送っておきました。

板垣氏の報告後、2日ほど全国的に天候が優れませんでした。しかし、10月23日夕刻にこの新星を観測した板垣氏から18時35分に「栃木の観測所にある50cm望遠鏡で観測しました。予想に反して明るくなっています。10月23日17時49分に7.7等でした」という報告が届きます。『えぇ…7等。そんな増光しているのか』と思い、22時25分に氏の観測をダンに知らせました。ダンには、23時55分に別の用件で出したメイルに『この明るい新星を公表する回報(CBET)が必要だ。もし、スペクトル確認の報告が届いてないのなら、新星状天体で掲載すればよい』という要望を書き添えておきました。さらに24日00時01分に美星の綾仁一哉氏に『すでにご存知だと思いますが、板垣氏が発見したPNが10月23日には7.7等になっているとのことです。もし可能でしたら(天候が悪いですが…)スペクトル観測を行っていただけないでしょうか。お忙しいところ恐縮ですがよろしくお願い申し上げます』というお願いを送っておきました。00時41分には、綾仁氏から「このところ晴れることが少ないですが、24日は晴れそうです。すでにATel 9658で古典的新星との判定がなされていますが、7.7等なら薄明中でも撮れそうですので、一般公開タイムになる18時の直前に撮れそうなら、がんばってみます」という返信が届きます。ありがたいことです。しかしダンは、綾仁氏からの報告を待たず、10月24日14時09分到着(発行は10時08分)のCBET 4332にこの新星の出現を公表してくれました。そこには、豪州のピアースによって、新星の眼視光度が10月20日に11.0等、21日に9.9等、22日に8.6等、23日に8.0等と次第に増光していく状況が報告されていました。

次の夜(10月26日)00時15分に綾仁氏から「まとめるのが遅くなってしまいましたが、10月24日の夕方に分光観測をしました。そのレポートをTOCPに上げました。すでにATelにルーカスのレポートとCBET 4332も出てしまったので、どう扱われるかはわかりません。なお、観測は10月24日18時頃に美星天文台の1.01m望遠鏡で行ったもので、新星爆発直後の星であるようです」というメイルが届きます。ダンには、03時31分に『TOCPにAyaniのスペクトル観測が入っている』ことを伝えておきました。そして、03時34分に綾仁氏に『お忙しいところ、ありがとうございました。TOCPだけじゃなくグリーンに報告していただいたのですよね。お手数をおかけしました』というお礼状を送っておきました。ダンは、07時48分到着(発行は03時47分)のCBET 4333で綾仁氏のスペクトル観測を公表しました。

『これで良かった』と思っていると、その夜22時52分に綾仁氏から「実は、グリーンには送っていませんでした。ATel 9658の記事を読んだ上で報告を書きました。そのため、報告文にはATel 9658にも言及したのですが、直接グリーンに送るとその部分がカットされる心配があって、あえてグリーンには送らず、TOCPだけに投稿しました。結局、CBETに転載されて少々驚きました。しかも、ATel 9658に言及したところはカットされました。掲載はありがたいのですが、ATelの記事を無視したように見えるのはちょっと困っています」という苦情のメイルが届きました。そこで『出すぎたまねをしました』と10月27日00時26分に『お忙しい折りに観測をありがとうございました。すみません。私が伝えてしまいました。お許しください』とお詫びのメイルを送りました。

とにかく、10月27日01時51分に新天体発見情報No.234を発行して、報道各社に板垣氏の新星発見を伝えました。これとは別に関係者宛てに送ったメイルには『新天体発見情報を報道各社に送付しました。綾仁様、ご迷惑をおかけしました。観測を行っていただきありがとうございます』と付け加えておきました。綾仁氏からはその夜の23時42分に「グリーンへの報告と新天体発見情報への掲載、ありがとうございました。櫻井さんの天体(次号紹介予定)は、すでにASASが発見していたようで残念でした。板垣さんがさらに別のTCPを見つけたのはすごいです。ただ、薄明中の12.8等星の観測はこちらでは厳しいかと思っております」というメイルが届きます。

※天体名や人物名などについては、ほぼ原文のままで掲載しています。